2025年春、日本の米市場は混乱に包まれています。いわゆる「令和の米騒動」と呼ばれるこの出来事は、価格高騰や店頭の在庫不足を引き起こし、消費者の不安を一気に高めました。この混乱の背後には、農林水産省の対応だけでなく、自民党の「農水族(※昔の名残で農林族という人もいます)」と呼ばれる議員たちの存在も指摘されています。
彼らは農林水産業に関する政策に強い影響力を持ち、特にJA(全国農業協同組合)との関係が深いことで知られています。
この記事では、令和の米騒動にも一因とされる「農水族」の実像を掘り下げながら、選挙で投票する際に何を見極めるべきかを解説します。
農水族とは何か?──JAと国会をつなぐ“影の実力者”
「農水族」とは、農林水産省や農業政策に特化した知識・人脈を持ち、農業団体とのつながりを背景に政策を動かす国会議員のことです。とくに自民党内で力を持ち、農林部会や政務調査会に所属することで、法案の中身を実質的に決定する場面も多く見られます。
この農水族議員の特徴として、
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JAグループ(農協)からの強い推薦・支援を受けている
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農業補助金や規制維持を重視し、改革に消極的
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地方の農業票を基盤に選挙に強い
といった傾向が見られます。
農水族はどこにいる?──現役参院議員の顔ぶれ
以下に、現職の参議院議員で農水族とされる人物と、その活動の一部を紹介します。
山田 俊男 議員(自民・比例代表)
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経歴:全国農業協同組合中央会(JA全中)で専務理事を務めた後、参議院議員に転身。
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活動:農林水産委員会に所属し、JAグループとの連携を重視した農政を推進しています。
藤木 眞也 議員(自民・比例代表)
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経歴:元JAかみましき組合長、元JA全青協会長。
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活動:農林部会副部会長として、JA全中や全国農政連との連携を強化し、農政の重要課題を共有しています。
野村 哲郎 議員(自民・鹿児島県選挙区)
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経歴:鹿児島県農業協同組合中央会参事を経て、参議院議員に。
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活動:第67代農林水産大臣を務め、農業政策の推進に関与しました。
進藤 金日子 議員(自民・比例代表)
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経歴:農業土木技術者としてのバックグラウンドを持ち、土地改良事業に精通。
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活動:農業政策に関する講演や委員会活動に積極的に参加しています。
農水族の“行動”を見よう──実績と答弁から読み解く
投票の判断基準として、候補者が何を言ったかではなく「何をしてきたか」を見ることが重要です。
例えば、
山田俊男議員のケース
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2018年参院本会議発言:「農協を中心に農政を進めていくべきだ」
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実績:米の直接支払い制度の維持を主張。農協の共販制度を守る立場。
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評価:農業の競争力強化や販路の多様化には一貫して消極的。農協の意向を代弁する存在。
藤木眞也議員のケース
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農林水産委員会での答弁:「現場農家の声を政策に反映させることが重要」
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実態:全国農政連(JA系団体)の意向文書をそのまま質問に用いた例もあり、「現場の声」としながらも農協中央の立場に寄る傾向が強い。
こうした実例から分かるのは、農水族議員の多くが「農家全体」ではなく「農協組織」の意向を重視しているという点です。
JAと農水族の関係──組織票がもたらす構造的癒着
農水族の政治力の背景には、JAグループの組織票があります。
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選挙支援の構造:各都道府県の農政連(JA関連団体)は、候補者に対して推薦状を出し、組合員や職員に「自主的支援」を呼びかけます。
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政策形成の癒着:自民党農林部会では、JAから事前ヒアリングを行った上で政策案が練られ、議員はJAの希望をそのまま反映させる傾向が強い。
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予算配分にも影響:農水族が強い影響力を持つことで、農協に有利な補助金制度や制度設計が継続される。
こうした関係は、農業の現場を守るどころか「古い体制の維持」に寄与しており、結果として日本農業の競争力低下や若手就農者の減少につながっているとの指摘もあります。
投票前に考えたい──「この議員は日本の農業を強くするか?」
今回の米騒動を通じて、「なぜ政府は消費者や流通ではなく、農協ばかり見ているのか?」という声が噴出しました。その背景には、農水族の政治的影響力と、JAとの密接な関係があります。
今後の日本農業は、
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生産者と消費者をつなぐ流通改革
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若手農家を支援する新しい仕組み
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海外市場への展開とデジタル技術の導入
といった、抜本的な改革が求められています。しかし、農水族議員の多くは、これらに慎重あるいは否定的です。
だからこそ、選挙では「この議員は何を守り、何を変えようとしているのか?」をしっかりと見極める必要があります。農協の意向を代弁するだけでなく、日本の農業を未来へと導く意思と具体策を持った候補かどうか。それを判断材料にすることが、主権者である有権者の責任です。
問われるのは「これからの農政をどうするのか」という視点
農業は日本の食卓を支える根幹です。しかしその現場では高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加、グローバル市場との競争激化など、課題が山積しています。そうした中で農水族の議員たちは、果たしてこうした構造問題に対してどのようなビジョンを持っているのでしょうか。単に既得権益を守ることに終始していないか、本当に日本の農業を強くしようという戦略を描いているのか──それが今、有権者に問われているのです。
参院選2025──「農水族が何を語るか」に注目しよう
今年の参議院選挙では、農水族とされる現職や候補者たちが、選挙区によっては複数名出馬すると見られています。例年通りであれば、彼らは「地元農業の支援」「JAとの連携」「安定した農政の継続」といった聞き慣れたフレーズを掲げることでしょう。しかし私たち有権者は、こうした曖昧なスローガンではなく、「どうすれば農業の担い手を育てられるのか」「日本の農業を国際競争力ある産業に変えるにはどうすべきか」「消費者と生産者をどうつなぐか」といった“未来を見据えた具体策”の有無に注目すべきです。
今回の米騒動を「他人事」で終わらせないために
今回の混乱は、単なる一過性の問題ではありません。農業政策の意思決定がどのようになされ、誰の声が反映されているのか──それが、日々の食卓に直接的な影響を及ぼすという現実を私たちに突きつけました。だからこそ、参院選2025は重要です。「この候補者は、本当にこれからの農業を考えているのか?」「JAに言われたことを代弁するだけの存在になっていないか?」。投票所に向かう前に、そうした問いを心に刻む必要があります。