「転んで手首を骨折したら、次は背中が丸くなった。そして今度は股関節…」
骨粗鬆症を抱える多くの方が陥ってしまう「骨折の連鎖」、別名「ドミノ骨折」をご存知ですか?
この現象の最大の問題は、一度目の骨折が、二度目、三度目の骨折を呼んでしまう点にあります。この連鎖が進行すると、姿勢は大きく崩れ、行動範囲は狭まり、最終的には自立した生活さえ危うくなってしまいます。
最初の骨折を最後の骨折にするために、なぜドミノが倒れてしまうのか、そしてどうすればその流れを止められるのかなどについて、ご紹介します。
骨折の連鎖(ドミノ骨折)が起こる主なメカニズム
ドミノ骨折とは、骨粗鬆症が原因で最初の骨折(脆弱性骨折)を起こした人が、その後、まるでドミノ倒しのように次々と別の部位の骨折を繰り返してしまう現象です。一度骨折を起こすと、再骨折のリスクは非常に高まります。特に最初の骨折から1年以内は、次の骨折が起こりやすい「切迫した骨折リスク」の状態にあるとされています。
この連鎖は、単に骨が弱いだけでなく、身体機能と力学的な変化によって複合的に引き起こされます。
1. 最初の骨折が示す全身の脆弱性
最初の骨折(脆弱性骨折)は、手首の骨折(橈骨遠位端骨折)や背骨の骨折(椎体骨折)が多いですが、これらは全身の骨がすでに非常に弱っていることの明確なサインです。
- 既存骨折の影響: 一度骨折した既往があるだけで、他の部位の骨も軽微な力で骨折する危険性が高まります。特に背骨の骨折がある場合、大腿骨近位部(脚の付け根)の骨折リスクは、骨折がない人に比べて2倍以上高くなると報告されています。
2. 背骨の骨折による姿勢(バランス)の破綻
ドミノ骨折の悪循環で最も深刻なのは、背骨の骨折(椎体骨折)が引き起こす姿勢の変化です。
- 脊柱後弯の増強: 椎体骨折で背骨が潰れると、背中が丸くなり(円背)、全身のバランス(矢状面バランス)が崩れます。
- 代償作用と転倒: バランスが崩れると、体は倒れないように膝を曲げたり、股関節を屈曲させたりして代償しようとします。これにより、歩幅が狭くなり、足が上がりにくくなる(すり足歩行)ため、わずかな段差やカーペットでもつまずきやすくなり、転倒リスクが極めて高まります。
3. 不動による身体機能の急速な低下
骨折後の安静や痛みによって体を動かせない期間ができると、運動器の機能が急速に低下します。
- サルコペニア(筋力低下)の進行: 廃用性萎縮により、骨折周囲だけでなく全身の筋力が低下し、立ち上がりや歩行が不安定になります。
- 骨のさらなる弱体化: 骨は荷重をかけることで強度を維持しますが、活動量が減ると骨への刺激が減り、骨密度がさらに低下します。これにより、より軽い転倒でも骨折に至る状態になります。
👉 連鎖のイメージ
弱い骨 → 軽微な力で椎体骨折(最初のドミノ) → 姿勢が崩れ、転倒リスクが上昇 → 転倒 → 大腿骨近位部骨折(次のドミノ) → 寝たきり・活動性低下 → 筋力・骨密度のさらなる低下 → 次の骨折へ
ドミノ骨折がもたらす深刻な影響
ドミノ骨折は、単に骨が折れるというだけでなく、生活全体に深刻な影響を及ぼします。
- 生活の質の低下(QOLの低下):痛みや可動域の制限により、家事や外出が困難になり、日常生活が著しく制限されます。
- 要介護・寝たきりのリスク上昇:大腿骨近位部骨折などにより、歩行能力が失われ、要介護状態や寝たきりになる可能性が高まります。実際に、要介護となる原因の上位に骨折・転倒が挙げられています。
- 生命予後の悪化:特に高齢者の大腿骨近位部骨折は、その後の生命予後(寿命)にも悪影響を及ぼすことが知られています。
ドミノ骨折を断ち切るために重要なこと
骨折の連鎖を止めるには、以下の2点が極めて重要です。最初の骨折が起こった時点での迅速な対応が、その後の人生を左右します。
1. 骨粗鬆症の早期治療と継続
一度骨折してしまった場合は、「単なるケガ」と捉えず、骨粗鬆症という病気の治療が必要な状態と認識することが重要です。 骨折を機に、骨密度を高め、骨折を予防する薬物療法(骨吸収抑制剤、骨形成促進剤など)を速やかに開始し、医師の指示のもとで継続することが、次の骨折を防ぐための最も重要な対策となります。
2. 転倒予防とリハビリテーション
姿勢を改善し、筋力を回復させるためのリハビリテーションや運動療法も欠かせません。
- 住環境の整備:自宅内の段差を解消したり、手すりを設置したりするなど、転倒しにくい環境を整えることも大切です。
- バランス能力の向上:ウォーキングやバランス運動など、医師や理学療法士の指導のもとで安全な運動を続けることが、転倒を防ぐカギとなります。
【参考情報】ドミノ骨折を防ぐための根本対策:骨粗鬆症の予防
ドミノ骨折の連鎖を断ち切るには、何よりも最初の骨折を起こさないことが重要です。骨粗鬆症そのものを予防・改善するための、日頃からの対策を確認しましょう。
1. 骨を強くする「栄養」の摂取
骨の材料と、その吸収を助ける栄養素を意識して摂取しましょう。
- カルシウム(骨の主成分)
- 含まれる食品の例: 牛乳、乳製品、小魚、豆腐、小松菜など
- ビタミンD(カルシウムの吸収を促進)
- 含まれる食品の例: 鮭、うなぎ、きくらげ、きのこ類など
- ビタミンK(骨の形成を促進)
- 含まれる食品の例: 納豆、ほうれん草、ブロッコリーなど
2. 骨に刺激を与える「運動」と「日光浴」
骨は適度な負荷がかかることで強くなります。
- 運動習慣: ウォーキング、軽いジョギング、筋力トレーニングなど、重力に逆らう運動を習慣的に行いましょう。これにより骨が強くなるだけでなく、筋力がつき、転倒の予防にもつながります。
- 日光浴: 日光(紫外線)を浴びることで、体内でカルシウムの吸収を助けるビタミンDが活性化されます。適度な時間(夏は木陰で30分、冬は1時間程度)外に出ることを心がけましょう。
3. 定期的な検査と生活習慣の見直し
- 骨密度検査: 定期的に骨密度の状態を確認し、ご自身の骨の健康状態を把握することが重要です。
- 生活習慣: 喫煙は骨密度を大きく低下させるため止めましょう。また、飲酒は過度になると骨を弱くする原因になります。飲酒は適量を守り、純アルコール換算で1日平均24g(日本酒1合、ビール中瓶1本程度)を超える習慣的な摂取は控えるよう心がけましょう。無理なダイエットも骨を弱くする原因になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 最初の骨折は、どの部位が多いですか?
A. 最初の脆弱性骨折として最も多いのは、背骨(椎体)の骨折、次いで手首(橈骨遠位端)の骨折です。手首の骨折は比較的軽視されがちですが、これらは全身の骨粗鬆症が進んでいるサインであり、その後に最も深刻な大腿骨近位部(脚の付け根)の骨折につながるリスクが高いとされています。
Q2. 骨折の連鎖は、どれくらいの期間で起こるのですか?
A. 最初の骨折を起こした後、1年以内が最も再骨折(二次骨折)のリスクが高い「切迫した骨折リスク」の期間とされています。この期間に次の骨折が起こるケースが多いことが知られているため、骨折直後からすぐに治療を開始し、集中的に骨折予防に取り組むことが極めて重要です。
Q3. 骨粗鬆症の治療薬は、一度始めたらやめられないのですか?
A. 骨粗鬆症の治療は長期継続が原則ですが、「やめられない」わけではありません。治療の目標は、骨折しない状態を維持することです。患者さんの骨密度の状態や骨折リスクの評価に基づき、医師が薬の量や種類、治療期間を判断します。自己判断で中止せず、必ず医師と相談しながら継続することが大切です。
ドミノ骨折の連鎖を断ち切るために
ドミノ骨折は、単なる複数の骨折ではなく、「生活の自立」を脅かし、「要介護」に直結する深刻な連鎖反応です。
この連鎖を断ち切るために、最も重要な行動は次の2点です。
- 最初の骨折が起こったら、それを「警告」と捉え、すぐに骨粗鬆症の治療を開始し継続すること。
- 日頃から栄養・運動・転倒予防に取り組み、次の骨折が起こるリスクを徹底的に排除すること。
骨折は治療すれば終わりではありません。最初の骨折を最後の骨折にするために、今すぐ骨の健康に対する意識を高め、適切な行動を始めましょう。

