「バナナのたたき売り」批判の裏に――誰も語らない“農政の本質的な問題”とは
「玄米60キロを1万700円、これは“バナナのたたき売り”ではないか」――国会で野田佳彦議員(立憲民主党)が小泉進次郎農水相を追及した一言が注目を集めた。
政府は米価高騰への対応として、備蓄米を入札ではなく随意契約で市場に放出。5キロあたり約892円(税抜)という価格設定は、従来よりもかなり安く、店頭価格も2,000円前後になると見られている。
こうした措置に対して、野党は「農家を苦しめる」「市場を歪める」と激しく批判を繰り返した。だが、そこにあるべきは単なる価格論争ではない。問題はむしろ、その価格の不安定さを生んでいる農政の構造的な歪みである。
米の価格がここまで不安定化した背景には、かつて“廃止されたはず”の減反政策が、名前を変え、形を変えて今なお機能し続けているという実態がある。そしてこの政策の継続には、自民党の農水族だけでなく、JAとの関係を背景に農政改革を避けてきた野党側の農水族議員の存在もまた、大きく関わっている――
野党にも“農水族”がいる――個別議員の姿勢と発言から見えるもの
与党・自民党の農水族議員が農政改革のブレーキとなっていることは広く知られているが、実は野党にも同様にJAと強い関係を持ち、改革に消極的な“農水族”が存在する。ここでは、参議院農林水産委員会などで農政に関わる野党系議員の主張や姿勢を個別に見ていく。
田名部匡代(立憲民主党・青森選挙区/参院農水委員会 理事)
農協との結びつきが強く、農業予算の増額や所得補償の拡充など、「守る農政」の立場をとっています。2024年の立憲キャラバンでは「防衛も大事だが、食がなければ命は守れない」と発言し、農業支援の強化を訴えた。減反政策には明確に反対していません。
舟山康江(国民民主党・山形選挙区/参院農水委員会 理事)
農水省出身で制度に精通し、農業の多面的価値を重視しています。規模拡大や企業参入には慎重で、家族農業や中山間地域の保全を重視する立場をとっています。また、「食料主権」の観点から輸入依存を批判し、国内生産維持を訴えっています。
徳永エリ(立憲民主党・北海道選挙区)
北海道の大規模農家を代表し、食料安保の重要性を訴える一方で、現場保護型の農政を支持しています。物価高に対する農家の苦境や、コスト増への支援拡充を求める発言が多い傾向があります。農協系団体との連携も強いです。
羽田次郎(立憲民主党・長野選挙区)
新自由主義的農政を批判し、「成長産業化」で地方の農業が切り捨てられたと指摘しています。家族農業を支える仕組みの再構築を主張しています。農業競争力よりも自給率向上を重視する姿勢が目立っています。
横沢高徳(立憲民主党・岩手選挙区)
障がい者雇用や福祉農業の経験を生かし、「農業と地域社会の共生」を訴えています。農家支援や多様な担い手の育成を重視しています。減反政策そのものへの賛否は明示していないが、現場目線の支援には積極的です。
松野明美(日本維新の会・比例代表)
熊本県出身で農業関係の政策活動は限定的です。但し、維新全体としては「農業の民間活力活用」「規制改革」に積極的であり、今後のスタンスに注目が集まっています。
紙智子(日本共産党・比例代表)
政府の生産調整政策(減反)を一貫して批判。価格保障・所得補償の充実や米の直接買い上げ制度を提案するなど、「農家が安心して作れる環境」重視の立場をとっています。また、構造改革より農家保護に軸足を置いています。
寺田静(無所属・宮城選挙区)
東日本大震災後の復興や農業再建に取り組み、農協との連携も見られます。中山間地や高齢農家への支援を訴えるが、農政改革への踏み込みは慎重です。
打越さく良(立憲民主党・比例代表)
法曹出身。女性農業者や家族経営支援に関心を示し、ジェンダー平等や福祉政策との接点から農業を論じることが多い傾向があります。構造改革への積極的姿勢は見られず、農業者保護型の視点が強い傾向があります。
倉林明子(日本共産党・京都選挙区)
共産党内の農政担当議員。農産物価格の低迷を「政府の責任」とし、所得補償・再生産可能な価格設定を強く求めています。減反廃止には否定的で、むしろ生産支援の強化を提言しています。
嘉田由紀子(無所属・滋賀選挙区)
元滋賀県知事。環境政策と結びつけた農業支援を重視し、地域循環型農業や集落営農の価値を強調しています。政策としては現行制度の延命に寄与している側面もあります。
これらの議員は与党ではないものの、減反的な発想や農協との結びつきを通じて農政の“岩盤”を守る立場にあることが多いです。農業政策の改革を進めるうえでは、与野党を問わず「農水族」とされる議員の姿勢に目を向ける必要があります。
なぜ野党も改革を進められないのか?
● 地元票に依存
地方の選挙区では、JAの支援なくして選挙に勝つことが難しいケースも多く、JAに配慮した政策が優先されがちです。
● JAの意向に沿った政策が主流に
例えば、戸別所得補償制度の復活や価格の下支えなど、改革というより現状維持・保護色の強い政策が中心です。
● 改革の“対案”がなく、支援の“追認”に
「どう改革すべきか」ではなく、「もっとお金を出せ」とだけ訴える政策姿勢では、長期的な競争力の確保は望めません。
野党はなぜ農政改革に消極的なのか?
自民党に限らず、野党にも農業改革に本腰を入れられない構造的理由があります。最大の要因は、地方の農協組織との関係です。野党議員の中にも、地元農協からの支援や票を得ている“農水族”が少なくありません。選挙基盤を支えるこれらの組織の意向を無視することは難しく、結果として改革に踏み切れない議員が多くいます。
JAと野党農水族の“共生関係”
野党の一部議員も、JAとの間に以下のような相互依存構造を築いています。
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JA:政治的影響力を維持し、既得権を温存
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議員:選挙支援を受け、農政委員会での発言権を確保
農協(JA)は農家にとっての経済的・生活的インフラであり、同時に政治的にも影響力を持つ巨大組織です。野党であっても、JAと友好関係を築くことで地元への影響力を維持しようとする傾向が強く、JAの既得権益を脅かすような制度改革には腰が重い傾向があります。特に立憲民主党や国民民主党の一部議員は、農協との関係が深く、改革論議において抑制的な立場を取っています。
この関係がある限り、与党・野党を問わず「JAファースト」の政策が優先される構図は崩れにくいのです。
誰が農政改革を妨げているのか
私たちが選挙で選ぶべきなのは、「農業に詳しいふりをする議員」ではありません。
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JAとの癒着を続ける農水族
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農政に通じていないのに“農業の代表”を名乗る議員
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地域票の保全を優先し、改革を語らない政治家
農政改革の議論では、しばしば「自民党の農水族」が槍玉にあがるが、実際には与野党問わず、既存の制度を維持したいとする議員が多く存在しています。こうした議員たちは表向きには「農家を守る」と主張するが、結果的には補助金依存と非効率を温存するだけの政策に終始しがちです。国会内に存在するこの“超党派の岩盤”が、日本の農業を停滞させている大きな要因です。
本当に農業の未来を見ている議員を選ぶには
いま、日本の農業はかつてないほどの転換点に立たされています。人口減少、耕作放棄地の拡大、世界的な食料不安、そして国内米価の乱高下。こうした現実に真剣に向き合い、未来の農業をどう持続可能にしていくのか。そのビジョンを示せる政治家が、これからの時代には求められます。
しかし現状では、自民党だけでなく野党にまで“農水族”と呼ばれる、既得権益との結びつきが強い議員たちが存在し、改革にブレーキをかけています。彼らの多くは、農協(JA)との関係を優先し、現場の変化や若手農家の声よりも、制度の維持や票田の維持を重視しているように見えます。
2025年夏には参議院選挙が予定されています。農業政策は一見すると地味に見えるかもしれませんが、実は私たちの「食の安全」「地方経済」「未来の環境」に直結する、きわめて重要なテーマです。
だからこそ、私たち有権者が問うべきなのは――
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その候補者は、既得権益に依存していないか?
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減反政策や補助金行政に対して、問題意識を持っているか?
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農協との関係に依存せず、持続可能な農業の構想を語っているか?
という点です。
表面的な「農家を守る」というスローガンではなく、その裏にある政策構造や、発言・投票行動の実績に目を向けることが、政治を変える第一歩です。
参議院選挙は、個人の一票が意外と大きな意味を持ちます。農業の未来を真に考え、行動する議員を見極めるために、候補者の政策や発言をしっかりチェックし、「票」で意思を示しましょう。