6月3日 17:53 JCMって何?日本と世界が手を取り合う脱炭素の仕組み | マーケターのつぶやき

JCMって何?日本と世界が手を取り合う脱炭素の仕組み

「JCM」という言葉を最近よく耳にするけれど、一体何のことだろう? 地球温暖化対策のニュースで目にするものの、その具体的な仕組みや私たちとの関わりが見えにくいと感じている方もいるかもしれません。

この記事では、JCM(二国間クレジット制度)の基本的な仕組みから、なぜ今この制度が必要とされているのか、そして実際にどのような成果を生み出しているのかなどについて、ご紹介します。

JCMの基本を知ろう!

まずは、JCMの基礎から見ていきましょう。

JCMとは?(定義と目的)

JCMは、「Joint Crediting Mechanism(二国間クレジット制度)」の略称です。これは、日本が持つ優れた脱炭素技術や製品、システムなどを、途上国などのパートナー国に導入することで、その国の温室効果ガス(GHG)排出削減・吸収に貢献する国際的な協力の仕組みです。

簡単に言うと、日本が海外で「脱炭素化」のお手伝いをし、その成果を日本とパートナー国で分け合うことで、両国の温室効果ガス削減目標達成に役立てる制度、と言えます。

主な目的は以下の3つです。

  • 途上国の持続可能な開発への貢献: 日本の先進技術を導入することで、パートナー国の経済発展と環境負荷低減を同時に進めます。
  • 日本の温室効果ガス排出削減目標(NDC)達成への活用: パートナー国での排出削減・吸収量を数値化(クレジット化)し、その一部を日本の削減目標達成に充てます。
  • 地球全体の温室効果ガス削減の促進: 国境を越えた協力で、地球規模の気候変動対策を加速させます。

なぜJCMが必要なの?(背景)

地球温暖化は、もはや待ったなしの世界的な課題です。温室効果ガスの排出量を大幅に削減しなければ、地球の気候は取り返しのつかない変化に直面すると言われています。

特に途上国では、経済発展のためにエネルギー需要が増大する一方で、資金や技術の不足から、効率的な脱炭素技術の導入が難しいという現状があります。

ここでJCMが光を放ちます。先進国である日本が、その技術力と経験を活かして途上国の脱炭素化を支援することで、地球全体の温室効果ガス削減に貢献できるのです。これは、2015年に採択されたパリ協定の精神にも合致しており、国際社会が協力して気候変動に取り組むための重要なメカニズムとして注目されています。

パリ協定とJCMの役割

そして、この国際的な気候変動対策を大きく進めるための枠組みが、2015年に採択されたパリ協定です。

パリ協定は、以前の国際的な取り決めとは異なり、先進国・途上国を問わず世界のほぼ全ての国が、自主的に温室効果ガスの削減目標を定めて提出することを義務付けた、初めての普遍的な合意です。各国は「国が決定する貢献(NDC)」と呼ばれる独自の目標を掲げ、5年ごとにその目標を見直し、より意欲的なものに更新していく仕組みとなっています。

JCMは、このパリ協定の下で各国のNDC達成を後押しする有効な手段として位置づけられています。特にパリ協定の第6条(国際協力の条項)の実現に資するメカニズムとして機能しており、単に温室効果ガスを削減するだけでなく、日本の技術移転やパートナー国の持続可能な開発にも貢献する「Win-Win」の国際協力モデルとして期待されています。

JCMを通じて、地球規模で気候変動に取り組むための重要なメカニズムが機能しているのです。

JCMの仕組みを徹底解説!

では、JCMのプロジェクトは具体的にどのように進められるのでしょうか。図やイラストで説明されることが多いこのプロセスを、ステップごとに見ていきましょう。

誰が、何を、どうするの?

JCMプロジェクトには、主に日本政府、パートナー国政府、そして日本の企業や途上国の企業などが関わります。

基本的なプロジェクトの流れは以下の通りです。

  1. プロジェクトの特定・計画
    • 日本とパートナー国の政府間でJCMの二国間文書を署名した後、具体的なプロジェクトのアイデアが生まれます。例えば、「この国の工場に日本の省エネ設備を導入したい」「再生可能エネルギー発電所を建設したい」といった計画が立てられます。
    • 排出削減量やその算定方法、モニタリング方法なども検討し、詳細なプロジェクト計画書を作成します。
  2. 方法論の承認とプロジェクト登録
    • 日本とパートナー国政府が共同で設置する合同委員会が、提案された排出削減量の算定方法論(どうやって削減量を測るか)を承認します。
    • その後、プロジェクト計画が合同委員会に登録され、公式なJCMプロジェクトとして認められます。
  3. モニタリング・検証
    • プロジェクトが稼働した後、実際にどれくらいの温室効果ガスが削減されているのかを継続的に計測(モニタリング)します。
    • そのデータが正しいことを、登録されたプロジェクトとは独立した第三者機関が検証します。この段階は透明性と信頼性を確保するために非常に重要です。
  4. クレジットの発行と分配:
    • 検証された排出削減量に基づいて、「JCMクレジット」が発行されます。
    • このクレジットは、日本とパートナー国政府で事前に合意された配分比率(例:半分ずつなど)に従って分配されます。日本が獲得したクレジットは、自国の温室効果ガス削減目標(NDC)の達成に活用されます。

JCMは、従来の国際的な排出量取引制度であるCDM(クリーン開発メカニズム)に比べて、より柔軟で迅速な手続きが可能です。これは、参加国間の合意を重視し、技術移転と排出削減を同時に促進することを目的としているためです。

JCMが生み出すメリット

JCMは、単なる温室効果ガス削減にとどまらない、多岐にわたるメリットを生み出します。

日本にとってのメリット

  • NDC達成への貢献: 海外で達成した排出削減量を自国の目標にカウントできるため、日本の温室効果ガス削減努力を国内外に示すことができます。
  • 日本企業の海外展開支援: 環境技術やノウハウを持つ日本企業が、海外市場で活躍する機会を創出し、新たなビジネスチャンスに繋がります。
  • 国際社会でのプレゼンス向上: 気候変動対策のリーダーシップを発揮することで、国際社会における日本の信頼と影響力を高めます。

パートナー国にとってのメリット

  • 最新技術の導入: 自国だけでは資金的・技術的に難しかった、最新の省エネ設備や再生可能エネルギー技術などを導入できます。
  • 持続可能な経済発展: 環境に配慮した産業構造への転換を促し、経済成長と環境保全を両立する「グリーン成長」を支援します。
  • 雇用創出や技術移転: 新しい技術の導入に伴い、現地での雇用が生まれたり、技術者育成が進んだりする効果も期待できます。

地球全体にとってのメリット

  • グローバルな温室効果ガス削減: 国境を越えて効率的に温室効果ガス削減が進むことで、地球全体の温暖化対策が加速します。これは、気候変動という地球規模の課題に対し、まさに「One Team」で取り組む姿勢を示すものです。

JCMの最新事例

JCMは、現在30カ国(2025年5月時点)と二国間文書を締結しており、世界各地で様々なプロジェクトが進行中です。具体的な事例を見ることで、JCMがどのように機能しているか、よりイメージしやすくなるでしょう。

例えば、以下のようなプロジェクトがあります。

  • ベトナムでの工場省エネ化
    • 日本の高効率ボイラーやLED照明システムを導入し、工場のエネルギー消費量を大幅に削減。年間〇〇トンのCO2削減に成功し、工場の生産性向上にも貢献しています。
  • インドネシアでの再生可能エネルギー導入
    • 地方の離島で、日本の太陽光発電システムを導入。これにより、ディーゼル発電に頼っていた地域の電力供給がクリーンエネルギーに転換され、CO2排出量削減だけでなく、安定した電力供給も実現しています。
  • モンゴルでのごみ処理発電
    • 日本の技術を使い、大量のごみから発生する強力な温室効果ガスであるメタンを、そのまま大気中に放出するのではなく回収・活用して発電します。これにより、地球温暖化の原因となるメタンガスの排出を大幅に削減できるだけでなく、クリーンな電力を生み出し、地域のエネルギー源として活用することで、温室効果ガス削減と廃棄物問題の解決、さらにはエネルギー供給の安定化を同時に実現しています。

これらの事例はほんの一部ですが、JCMを通じて日本の技術が世界中で活躍し、地球の脱炭素化に貢献していることがお分かりいただけるでしょう。

JCMの未来と課題

JCMは、地球温暖化対策の切り札の一つとして、その役割を拡大し続けています。

今後の展望

日本は今後もJCMのパートナー国を増やし、対象となるプロジェクト分野もさらに多様化させていく方針です。再生可能エネルギー、省エネルギー、廃棄物処理、スマートシティ構築など、多岐にわたる分野での国際協力が期待されています。JCMは、パリ協定の市場メカニズムの具体例として、国際社会における気候変動対策のモデルケースとなる可能性を秘めています。

JCMが直面する課題

一方で、JCMにはいくつかの課題も存在します。例えば、制度の認知度向上、より多くの日本企業や途上国企業がプロジェクトに参加できるような支援体制の強化、そしてプロジェクト形成から実施、クレジット発行までの手続きのさらなる効率化などが挙げられます。これらの課題を克服することで、JCMはさらに大きな貢献ができるようになるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1: JCMとCDM(クリーン開発メカニズム)の違いは何ですか?

A1: JCMとCDMはどちらも温室効果ガス排出削減のための国際的な仕組みですが、いくつかの重要な違いがあります。

  • CDM: 京都議定書の下で運用されていた制度で、先進国が途上国で削減事業を行い、その削減量をクレジット化する仕組みです。国連の厳格な手続きが必要で、承認に時間がかかる傾向がありました。
  • JCM: パリ協定の時代に即した新しい制度です。日本とパートナー国が二国間で合意し、柔軟かつ迅速な手続きでプロジェクトを進められるのが特徴です。当事国間の合意を重視し、日本の技術移転を通じたパートナー国の持続可能な開発に重点を置いています。

Q2: JCMのプロジェクトはどのような分野で行われていますか?

A2: JCMプロジェクトは多岐にわたりますが、主に以下のような分野で実施されています。

  • 省エネルギー: 工場やビルでの高効率設備(高効率ボイラー、LED照明など)導入
  • 再生可能エネルギー: 太陽光発電、風力発電、水力発電、バイオマス発電(ごみ処理発電含む)などの導入
  • 廃棄物処理: 廃棄物発電、ごみ埋立地からのメタンガス回収・利用
  • 森林管理・吸収源: 森林保全や植林によるCO2吸収量の増加
  • その他: 高効率モビリティ(EV導入支援など)、スマートシティ関連技術など

日本の優れた環境技術が幅広い分野で活用されています。

Q3: JCMクレジットはどのように使われるのですか?

A3: JCMプロジェクトで発行されたクレジットは、日本とパートナー国で事前に合意した比率で分配されます。

  • 日本のクレジット: 日本の政府は、このクレジットを自国の温室効果ガス削減目標(NDC)の達成に活用します。これにより、国内の削減努力に加え、海外での貢献も日本の目標達成に反映させることができます。
  • パートナー国のクレジット: パートナー国は、自国の温室効果ガス削減目標達成や、持続可能な開発の進捗を示すために活用します。

Q4: JCMに参加したい企業は、どうすれば良いですか?

A4: JCMプロジェクトへの参加を検討する日本企業向けに、環境省や経済産業省などが様々な支援プログラムを提供しています。

具体的には、JCMのウェブサイト(環境省JCMサイトなど)でプロジェクトの公募情報やガイドラインが公開されています。まずはこれらの情報を確認し、自社の技術や製品がJCMの対象となり得るかを検討した上で、関連省庁や専門機関に相談してみるのが良いでしょう。

まとめ

JCM(二国間クレジット制度)は、日本が持つ優れた脱炭素技術と途上国のニーズを結びつけ、両国の温室効果ガス削減目標達成に貢献し、ひいては地球全体の気候変動対策を加速させる、非常に重要な国際協力の仕組みです。

日本の技術が世界中で環境問題の解決に貢献し、持続可能な社会の実現を後押しする。JCMは、まさに「地球の未来を守る」ための、力強い一歩と言えるでしょう。