26年の連立解消は「まさか」か「必然」か? 高市新体制が抱える自民党の“慢心”と公明党の“本音” | マーケターのつぶやき

26年の連立解消は「まさか」か「必然」か? 高市新体制が抱える自民党の“慢心”と公明党の“本音”

「まさか、本当に連立解消するとは」――。

26年間も日本の政権を支え続けた自民党公明党の「夫婦仲」が、ついに壊れました。10月10日、公明党の斉藤鉄夫代表が自民党の高市早苗総裁に対し、連立からの離脱を一方的に通告。高市総裁が「大変残念」と語る一方で、公明党が突きつけた理由は「政治とカネ」の問題への対応でした。

この背景には、「国民の政治不信」という冷たい現実を前に、「これ以上、自民党の不祥事を背負いきれない」と判断した公明党の切実な危機感が隠れています。

なぜ、自民党は長年のパートナーを失うことになったのか? その裏側には、国民の声に敏感な公明党の「したたかな戦略」と、連立に甘えてきた自民党の“慢心”が透けて見えます。

高市総裁は「裏金問題」を軽く見ているのか

今回の連立解消を招いた最大の要因は、「政治とカネ」の問題に対する高市総裁および自民党の「国民との認識のズレ」が大きすぎたことにあります。公明党の離脱は、このズレに対する明確なNOの表明でした。

高市総裁の総裁就任直後の言動には、「裏金事件はすでに過去のもの」としたいという意思が透けて見えていました。

  1. 「決着済み」という言葉の重さの軽視: 高市総裁は裏金問題について、捜査が終了したことから「決着済み」という認識を示しました。しかし、国民が求めているのは法的な処罰だけでなく、政治家としての「倫理的な責任」です。「国民の心の問題」である政治不信を「決着済み」という言葉で片付けようとしたことが、公明党に「本気で反省していない」という決定的な不信感を与えました。
  2. 人事における「刷新」の欠如: 総裁選後の党役員人事においても、裏金問題に関与した議員を要職から遠ざけるといった明確な「刷新」の姿勢が見えませんでした。これにより、自民党が組織全体として問題の深刻さを理解していないというメッセージが、公明党や国民に伝わってしまったのです。

この「危機感のズレ」こそが、公明党の切実な要求を軽視し、「一方的な通告」を受けるに至った自民党側の最大の間違いでした。

唐突に訪れた「連立解消」の衝撃

10月10日、自民党の高市総裁と公明党の斉藤鉄夫代表が会談。この場で斉藤代表が連立政権からの離脱を通告し、26年に及ぶ自公連立政権は一旦、白紙に戻されることになりました。

高市総裁は会見で「一方的に伝えられた」と語り、自民党側から見れば、まさに青天の霹靂だったことを示唆しています。しかし、公明党の斉藤代表は、離脱の理由を「政治とカネに関する基本姿勢で相違があった」と説明。この「政治とカネ」という言葉こそが、今回の解消劇のすべてを物語っています。

なぜ、このタイミングで、連立は崩壊したのでしょうか。

深層①:公明党が我慢できなかった「政治とカネ」の温度差

公明党が連立解消という劇薬を使った最大の理由は、昨年来の派閥裏金事件をめぐる自民党の「反省の欠如」、そして「危機感のなさ」です。

公明党は、連立継続の条件として、企業・団体献金の規制強化など、政治資金規正法の抜本改正を強く求めてきました。これは、生活者の声を代弁する公明党にとって、国民の政治不信をこれ以上放置できないという切実な思いからです。

しかし、自民党側の改革姿勢は最後まで曖昧でした。特に高市総裁は、裏金問題について「(捜査も終わり)決着済み」といった認識を崩さず、公明党が強く求める企業・団体献金への規制強化にも及び腰な姿勢が目立っていました。

会談当日も、公明党側が「政治とカネ」への具体的な回答を求めたのに対し、高市総裁が「党内で検討させる」と返答したことで、公明党の忍耐は限界に達しました。公明党からすれば、自民党がこの問題を「もう乗り越えた」とでも言いたげな態度に見えたのです。

斉藤代表が「国民の感情と懸け離れており、政治への信頼回復はおぼつかない」とまで言い切ったのは、自民党の対応が、国民の不満だけでなく、長年のパートナーである公明党の切実な要求さえも軽視していると映ったからです。

深層②:高市総裁の登場で崩れた「価値観のズレ」と「実益」の均衡

そもそも自民党と公明党は、「保守」「リベラル・福祉」という点で、根底に大きな価値観のズレを抱えていました。にもかかわらず26年間連立が続いたのは、公明党の強固な「集票力(選挙協力)」と、自民党の「政権安定」という、実利的なメリットが勝っていたからです。両党は、価値観の違いを「政策の妥協」で乗り越えてきました。

しかし、今回、連立解消に踏み切った背景には、高市新総裁が掲げる政治路線が、これまでの自民党のどのリーダーよりも公明党の価値観と相容れないと判断されたことがあります。

公明党の理念は「平和」や「福祉」「共生」といったリベラルな要素が強く、支持母体の創価学会が大切にする価値観と密接に結びついています。一方、高市総裁が総裁選で強く打ち出した保守的な政策は、公明党の支持層が懸念を抱きやすいものでした。

連立維持の決め手だった「実益」のバランスも崩れました。自民党の不祥事で連立を続けることが「実益」どころか、逆に公明党の支持基盤を傷つける「実害」となったとき、「政治とカネ」という問題に加え、この高市総裁の路線が、連立解消という決断を下す最後の口実となったと言えるでしょう。

核心:公明党の危機感に映る「国民の政治不信」

今回の連立解消を深掘りすると、公明党が自民党よりも、今の国民の政治不信に強く直面していたことが見えてきます。

一連の裏金問題で、最も大きなダメージを受けたのは、実は自民党よりも公明党だという見方があります。なぜなら、公明党は地方選挙などで、自民党候補への票を組織的に動員する「選挙協力」が生命線だからです。議員数が少ない分、少しの不振でも党勢全体への影響が大きくなります。

不祥事を起こした自民党と一緒に見られてしまうと、地方の有権者や支持母体は「なぜ、こんな政党を応援しなければならないのか」と離れていきます。公明党の地方議員たちからは、「自民党の不祥事を国民に説明し、応援することに限界が来ている」という、切実な悲鳴が上がっていました。

つまり、公明党の「連立を離れる」という決断は、自民党の慢心と無策から、これ以上、自分たちの選挙被害を拡大させたくないという、きわめて合理的な、そして国民の怒りを無視できない戦略的な一歩だったと言えるでしょう。公明党は、自民党との連立を解消することで「国民の声に耳を傾ける政党」としての立ち位置を改めて示そうとしたのです。

今後の行方:高市新体制は「多難な船出」から「指導力」への問いへ

26年の連立に幕が下りたことで、日本の政治は一気に不安定さを増します。

高市総裁は、連立解消後も「政策ごとに協力する」という公明党の姿勢を強調していますが、今後は自民党単独の少数与党政権として、国会運営の難しさが格段に増すことは避けられません。臨時国会での首班指名選挙では、公明党が高市総裁に投票しない方針を示しており、この時点で指導力への疑問符がつくことになります。

この重大な事態を招いたのは、「政治とカネ」という国民が最も怒っている問題に対する高市総裁の認識の甘さ、そして連立パートナーへの配慮の欠如に他なりません。

高市氏の掲げる政策は、減税などの経済対策に重点が置かれがちですが、国民が今求めているのは「信頼できる政治」です。「減税さえ言っておけば、連立解消も裏金問題も、国民は許してくれるだろう」という姿勢が透けて見えるならば、それは国民の苦境や政治不信を軽く見ている証拠です。

さらに、高市総裁は「石破降ろし」を主導した一人とされていますが、その結果、トランプ氏との関税交渉で実績を残した石破氏ではない体制で、次期トランプ政権との外交という国難を迎えることになりました。

「政治とカネ」を軽視し、連立パートナーの危機感を理解しきれなかった自民党は、今回の解消劇によって、国民からの信頼だけでなく、議会での安定した基盤も失うことになりました。

就任前から政権の基盤を崩壊させ、外交における国益さえも危うくする高市新体制に、果たしてこの国のかじ取りを任せられるのか? 危機管理能力と国民の真の要求に応える指導力が今、厳しく問われています。