6月3日 17:53 農政の構造改革に必要なこととは?――日本の農業を立て直すために考えるべきこと | マーケターのつぶやき

農政の構造改革に必要なこととは?――日本の農業を立て直すために考えるべきこと

  1. ― 持続可能な農業のために必要な「仕組み」の見直し ―
  2. 1. なぜ構造改革が必要なのか?
    1. 1-1. 高齢化と担い手不足
    2. 1-2. 不透明な価格と流通構造
    3. 1-3. JAと農水省の癒着的関係
  3. 農政の構造改革で見直すべきポイントとは?
    1. ■ 0. 減反政策の法律的見直しと廃止の必要性
    2. ■ 1. JAの機能と役割の見直し
    3. ■ 2. 農水省の中立性と政策決定の透明化
    4. ■ 3. 支援制度の柔軟化とターゲティングの見直し
    5. ■ 4. 流通・販売構造の分散化とデジタル化
    6. ■ 5. 農業の大規模化・法人化の促進
    7. ■ 6. 消費者教育と価格構造の透明化
    8. ■ 7. 国際競争・貿易政策との整合性
    9. ■ 8. 災害・気候変動リスクへの備えと保険制度の再構築
    10. ■ 9. 食料安全保障と国家備蓄の戦略的見直し
  4. 他国の事例に見る農政改革の方向性
    1. アメリカ:大規模農業と自由競争の徹底
    2. フランス:家族経営の保護と多面的な支援
    3. オランダ:環境重視と高付加価値農業の両立
    4. 韓国:新規就農者支援と国産品優遇
    5. 台湾:地域ブランドと地産地消の強化
  5. 共通する傾向と示唆される方向性
    1. 1. 大規模化・効率化の推進
    2. 2. 若手・新規参入支援
    3. 3. 環境と持続可能性の重視
    4. 4. 地域との連携と高付加価値化
    5. 5. 政策の透明性と説明責任
  6. 日本の農政は“ガラパゴス化”している? ~世界標準と比較した構造的な遅れ~
    1. 【日本農政の“例外性”】
    2. 【世界の農政に見られる共通傾向】
    3. 【この構造を放置するリスク】
    4. 【この改革のポイント】
  7. 農政改革とは「誰のための農業か?」を問い直すこと

― 持続可能な農業のために必要な「仕組み」の見直し ―

近年、米の価格上昇や生産者の高齢化、耕作放棄地の増加など、日本の農業を取り巻く問題が深刻さを増しています。その背景には、市場の変化国際情勢の影響だけでなく、農政そのものの構造的な問題が横たわっています。

つまり、「価格を上げる・下げる」といった表面的な対応ではなく、農政の仕組み=構造そのものの改革が求められているのです。

本記事では、日本の農政における構造的課題を整理し、どのような改革が必要なのかを掘り下げます。

1. なぜ構造改革が必要なのか?

1-1. 高齢化と担い手不足

農業従事者の平均年齢は70歳近く、新規就農者は年々減少。これは一時的な問題ではなく、構造的な人口減少と若者離れによるものです。

1-2. 不透明な価格と流通構造

多くの農家は自分の生産物の最終価格を把握しておらず、中間業者や組織が価格を握る構造が続いています。農家の努力が正当に評価されにくい状況です。

1-3. JAと農水省の癒着的関係

JAは農家の支援組織である一方で、流通・販売・金融を担う巨大組織でもあります。農水省はJAに天下りし、JAは農水族議員の票田となるという、政策と利権が絡んだ構造が存在します。

こうした構造的な問題に対応するためには、制度や組織のあり方そのものを見直す必要があります。では、どのような改革が求められているのでしょうか?

農政の構造改革で見直すべきポイントとは?

農業の持続可能性と競争力を高めるためには、制度・仕組み・関係機関の在り方を抜本的に見直す必要があります。以下に、重要と考えられる改革の視点と、具体的な施策案として、下記のようなものも考えられるかと思います。

■ 0. 減反政策の法律的見直しと廃止の必要性

【具体的施策】

  • 減反政策は長年法律に基づき米の作付けを制限してきたが、事実上の廃止後も関連法令や補助制度が農家の自由な生産判断を制限している。

  • 減反に関する法律の抜本改正または廃止を行い、生産の自由化を法的に保障する。

  • 補助金制度の簡素化と柔軟化も併せて推進し、農家の経営多様化を促す。

【期待される効果】

  • 法的障壁が取り除かれ、農家が市場の需要に合わせた柔軟な生産が可能になる。

  • 経営多様化と生産効率化が進み、農業全体の競争力向上に寄与。

【この改革のポイント】

減反政策の法律的枠組みの見直しなしには、真の農政改革は進まない。制度の縛りを解くことが持続可能な農業経営の鍵。

■ 1. JAの機能と役割の見直し

【具体的施策】

  • JAを通さない直販・ネット販売への支援強化

  • JAの経営・流通コストの透明化と外部監査の導入

  • 地域に縛られない複数JAの選択制の検討

【期待される効果】

  • 農家が自由に販路を選べるようになり、収益改善が見込まれる

  • JA内での競争が生まれ、サービスの質やコスト意識が高まる

  • 流通の透明性が進み、価格の適正化と信頼の向上が期待される

【この改革のポイント】
JAの独占的立場を見直すことで、農家が本来得るべき利益を手にできる環境を整える。

■ 2. 農水省の中立性と政策決定の透明化

【具体的施策】

  • 政策決定に農家・消費者代表も参加できる仕組みの導入

  • 農水省幹部の「退職後5年間」は特定団体への就職を原則禁止(利益相反防止)

  • 外部機関による「再就職監視制度」の導入
     → 再就職申告の義務化
     → 利害関係団体への就職の際は第三者委員会による事前承認制
     → 年1回の就職先公開(透明性の確保)

【期待される効果】

  • 特定団体への過剰な利益誘導を抑制できる

  • 政策の公平性と中立性が保たれ、国民の信頼性が向上する

【この改革のポイント】
農業政策を特定団体のものではなく、国民全体のものとするために、農水省の中立性と再就職の透明化は不可欠。

【農水族議員との関係も問題】
加えて、農水省は一部の「農水族議員」と密接に連携し、JAなどの特定団体の意向を反映した政策立案を行うケースもあります。
こうした議員は、JAからの票や組織的な支援を背景に発言力を持ち、農水省とJAの癒着をさらに強める構造を助長しているとの指摘もあります。

その為、農水省の中立性を確保するには、幹部の再就職管理だけでなく、農政に対する政治的影響力の監視や、政策決定過程の外部公開も求められています。

■ 3. 支援制度の柔軟化とターゲティングの見直し

【具体的施策】

  • 一律型から成果連動型補助金への転換

  • 若手・新規就農者向けの支援制度の強化

  • 農地貸借制度の簡素化による参入障壁の緩和

【期待される効果】

  • 真に支援が必要な層へ効率的に資金が届くようになる

  • 若者や異業種からの参入が活発になり、人材不足の解消につながる

【この改革のポイント】
支援の“量”ではなく“質”を重視し、成果が出る農家や新規参入者を育てる仕組みに転換する。

■ 4. 流通・販売構造の分散化とデジタル化

【具体的施策】

  • 農産物の直販・オンライン販売を支援するプラットフォームの構築

  • 地域ブランドの認証制度・販促支援の拡充

  • 規格外品の流通・食品ロス対策の市場整備

【期待される効果】

  • 中間マージンが削減され、農家の手取りが増える

  • 地域ごとの特色を活かした高付加価値な農業が実現

  • フードロス削減と地域貢献が同時に進む

【この改革のポイント】
デジタルと地域性を活かし、「安く売る」から「価値で売る」農業へシフトする。

■ 5. 農業の大規模化・法人化の促進

【具体的施策】

  • 農地集約への税制優遇・農地取得の法的手続き簡素化

  • 農業法人の設備投資・雇用・物流への重点支援

  • 農地バンク機能の強化による離農者と新規参入者のマッチング

【期待される効果】

  • 経営効率が向上し、農業が採算の取れる産業として成立

  • 若者や企業の参入が増え、農業の近代化と労働環境改善が進む

  • 地域の高齢農家の離農を支えつつ、農地の有効活用が進む

【この改革のポイント】
農業を“家業”から“産業”へと転換するためには、法人化・大規模化の支援が不可欠。

■ 6. 消費者教育と価格構造の透明化

【具体的施策】

  • 学校教育での「食と農の経済」教育の導入

  • 農産物価格の構成を見える化する情報ツールの開発

【期待される効果】

  • 消費者の理解が進み、「なぜ高いのか」が納得されやすくなる

  • 安値競争ではなく、“応援する消費”の文化が醸成される

【この改革のポイント】
消費者も農業の持続可能性に参加できる社会へ。価格を「支払う」ではなく「支える」に変える視点。

■ 7. 国際競争・貿易政策との整合性

【具体的施策】

  • WTO・EPAなど国際貿易協定との整合性を前提にした国内制度設計

  • 輸入農産物との競争に晒される国内生産者への“過渡的なセーフティネット”の構築

【期待される効果】

  • 国内農業が不利な条件で競争させられる状況を防ぎつつ、国際市場への対応力を養う

  • 政策が“鎖国的”でないという国際的な信頼を維持できる

【この改革のポイント】
農政改革は国内問題であると同時に、国際経済との調和を欠かせない。閉鎖ではなく“戦える農業”の支援が求められる。

■ 8. 災害・気候変動リスクへの備えと保険制度の再構築

【具体的施策】

  • 異常気象リスクに備えた保険制度の見直しと再保険の国費負担

  • 災害時の迅速な収入補填と復旧資金へのアクセス確保

【期待される効果】

  • 農業経営における“予見不能なリスク”への備えが強化され、離農を防ぐ

  • 地球温暖化の影響が拡大する中で、農家が安心して営農を継続できる

【この改革のポイント】
「食料安全保障=平時の話」ではなく、災害時も含めた“継続可能な仕組み”が必要。

■ 9. 食料安全保障と国家備蓄の戦略的見直し

【具体的施策】

  • 備蓄政策の“食料安定供給”だけでなく“価格安定装置”としての機能強化

  • 備蓄放出の運用ルールの透明化(随意契約問題の解消など)

【期待される効果】

  • 市場の急激な価格上昇や供給不足への迅速な対応が可能

  • 食料政策が国民全体のものとしての信頼性を高める

【この改革のポイント】
備蓄は“在庫”ではなく、“政策ツール”として戦略的に再設計すべき段階にある。

他国の事例に見る農政改革の方向性

農政の構造改革を考える際には、日本だけでなく他国の成功例や課題も参考になります。以下に主要国の取り組みを簡潔に紹介します。

アメリカ:大規模農業と自由競争の徹底

アメリカは農業の大規模化を進め、世界でも屈指の農業輸出国となっています。補助金は主に輸出競争力や価格安定を目的としており、自由市場の論理が基本です。農地の流動性が高く、法人・個人問わず新規参入の仕組みが整っています。

フランス:家族経営の保護と多面的な支援

フランスでは、伝統的な家族経営農家を重視しながら、環境保全や地方活性化との連動を図っています。EUの共通農業政策(CAP)に基づく手厚い補助があり、「農業は社会的な価値を持つ産業」として位置づけられています。

オランダ:環境重視と高付加価値農業の両立

国土の狭いオランダでは、スマート農業や都市型農業、環境負荷の低い栽培技術への転換が進んでいます。少ない土地で高収益を上げるため、技術革新・研究開発・輸出志向が政策的に強化されています。

韓国:新規就農者支援と国産品優遇

韓国は農業人口の減少対策として、新規就農者に対する住宅・融資・販路支援を拡充しています。また、国産農産物の購入を促す国民キャンペーンや価格安定制度も導入され、国内生産を重視する姿勢が顕著です。

台湾:地域ブランドと地産地消の強化

台湾では地域ブランド制度が活発で、農産物ごとに明確な「品質保証」の仕組みを導入しています。さらに、学校給食や官公庁での「地元農産物優先使用」など、制度的に地産地消が推進されています。

共通する傾向と示唆される方向性

これらの事例からは、国ごとの歴史や経済環境に違いはあるものの、共通した改革の方向性が浮かび上がります。

1. 大規模化・効率化の推進

どの国も、土地や労働力の制約を克服するため、農地集約やスマート農業への投資を重視しています。

2. 若手・新規参入支援

農業人口の高齢化は共通課題であり、新規就農者への包括的な支援(資金・住宅・販路)が不可欠とされています。

3. 環境と持続可能性の重視

環境規制や気候変動対応は欧州を中心に制度化が進んでおり、農政は「環境政策」の一部としても扱われています。

4. 地域との連携と高付加価値化

地域ブランドや地産地消を軸に、農業を地域経済と連動させる仕組みが構築されています。

5. 政策の透明性と説明責任

補助金や価格形成の仕組みを公開し、農業に対する国民的理解と支持を得るための努力が行われています。

日本の農政は“ガラパゴス化”している? ~世界標準と比較した構造的な遅れ~

近年、世界各国の農業政策は「経済性と公共性の両立」や「政策の透明性・分権化」といった方向に進んでいます。これに対し、日本の農政は依然としてJA・農水省を中心とする中央集権的で閉鎖的な構造にとどまっており、「農政のガラパゴス化」が進んでいるとの指摘があります。

【日本農政の“例外性”】

日本の農政が“例外的”と見なされる主な理由は以下の通りです:

  • JAを中心とした流通の独占構造
     → 農家が自由に販路を選べない。内部競争がなく、価格・コストの透明性に乏しい。

  • 家業型農家への偏った支援
     → 大規模化・法人化が進まず、担い手不足や生産性の低さが改善されにくい。

  • 実質的に残る減反的思想と価格誘導的な補助金制度
     → 生産調整や備蓄米制度の運用が、自由な生産判断や市場の機能を阻害している。

  • 政策決定過程の閉鎖性
     → 農水省と農水族議員、JAが密接に連携し、外部の農家・消費者・研究者の意見が入りづらい構造。

【世界の農政に見られる共通傾向】

欧州・アメリカ・オーストラリアなどでは、以下のような方向性が共通しています:

  1. 農業の公共性の明示(例:環境保全や地域維持に対する直接支払い)

  2. 経済性・競争力の確保(例:法人経営支援、自由な価格形成)

  3. 多様なプレイヤーの受け入れ(例:女性、若手、移民、兼業農家など)

  4. 政策決定の分権と透明化(例:州政府や市民団体が関与する制度設計)

こうした世界標準と比べ、日本の農政は旧来的な構造にとどまり続けており、制度疲労が顕著になっています。

【この構造を放置するリスク】

  • 担い手不足や農業人口の高齢化が進行し、農地が維持できなくなる

  • 国際競争に取り残され、農産物の輸出振興や食料安全保障が実現しにくい

  • 税金による補助金が“非効率な構造の延命”に使われてしまう

  • 生産者も消費者も満足できない「不健全な市場構造」が固定化する

【この改革のポイント】

世界の動向と歩調を合わせ、「農業の経済性と公共性を両立させる政策」「分権的で開かれた政策決定」を目指すことが、日本の農政の持続可能性を高めるカギとなる。

農政改革とは「誰のための農業か?」を問い直すこと

農政の構造改革は、単なる制度変更ではなく、「農家の暮らしを守り、日本の食を持続可能に支える」ための価値観の転換です。
そのためには、長年続いた減反政策の法的枠組みや、JA・農水省・農水族といった既得権構造にも踏み込む必要があります。

今年は参議院選挙が予定されており、農業政策をどのように位置づけるかが各政党にとっても重要な論点になります。
私たち有権者も、「誰のための農業か?」という視点で候補者や政策を見極めることが、持続可能な農業の未来を選ぶ第一歩になるはずです。