6月3日 17:53 農政改革はなぜ進まないのか? 揺れる政治と「誰のためのルール」 | マーケターのつぶやき

農政改革はなぜ進まないのか? 揺れる政治と「誰のためのルール」

農政改革の必要性が叫ばれている一方で、与党内からは改革を妨げるような声が上がっており、野党からも積極的な動きが見えにくい状況です。
先日、小泉進次郎農水大臣による備蓄米の市場放出をめぐって、野村元農水大臣が「党内手続きを無視した」と批判を展開しました。これをきっかけに、農政を巡る政治的な力学に改めて注目が集まっています。

農業は、私たちの食と暮らしを支える根幹であり、本来であればその改革は避けて通れないはずです。それにもかかわらず、なぜ農政改革はここまで難航しているのでしょうか。
この記事では、農政改革の現状と、その背後にある政治構造について読み解いていきます。

1. 政治に揺れる農政の最前線

2025年、小泉進次郎農水大臣が政府備蓄米の放出を決定した際、その判断に対して与党内から異論が相次ぎました。とくに注目されたのは、自民党の野村哲郎・元農水大臣による発言です。「党内手続きを経ていない」「農林部会に説明がなかった」といった指摘は、農政の意思決定に存在する“見えないルール”の存在を浮かび上がらせました。

今回の放出は、災害や需給逼迫時に備える政府備蓄米を、随意契約で民間に供給するというものでした。物価高や災害リスクを見据えた実務的な判断ともいえますが、「農林部会の合意がない」という理由から、党内で強いブレーキがかけられました。

こうした構図を見ていると、問いかけたくなります。「この“ルール”は誰のために存在しているのか?」

▶︎ポイント:問題視されている「ルール」は、国民全体の利益ではなく、党内や業界内部の秩序維持を前提とした慣行にすぎない可能性があります。

2. 農政改革が必要な理由

日本の農業は、いま大きな転換点に立たされています。農業就業者の平均年齢は67歳を超え、耕作放棄地も年々増加しています。農地の集約化や担い手不足の解消は、もはや待ったなしの課題です。さらに、世界的な食料需給の不安定化や気候変動といった要素も、農政にかかる負荷を高めています。

過去のように「減反政策」や「過剰な保護」で対応できる時代は終わりました。輸出競争、環境への配慮、食料安全保障——こうした課題を同時に解決していくためには、農政の構造そのものを見直す必要があります。

▶︎ポイント:農政改革は“農家のため”だけではありません。国民全体の食の安定と、地域経済の持続可能性を支える重要な取り組みです。

3. 自民党内の力学と「改革のブレーキ」

農政改革が進みにくい最大の要因の一つが、自民党内に根強く存在する“農水族”による既得権構造です。農林部会は、農業政策を決定するうえで事実上の「最後の関門」となっており、ここで承認を得られなければ、たとえ大臣であっても自由に政策を進めることはできません。

この構造の背後には、全国農業協同組合連合会(JA)との強固なつながりがあります。地方の組織票を握るJAと、自民党の農林族議員は長年にわたり“共存共栄”の関係を築いており、そのために大胆な改革にはどうしても慎重にならざるを得ない事情があるのです。

▶︎ポイント:自民党内に根付く「農政の慣行」は、政治的安定を優先するあまり、必要な改革を先送りしてしまう要因となっています。

4. 野党の対応と「不在の対抗軸」

農政改革が停滞しているもう一つの背景には、野党の存在感の希薄さがあります。現在、野党各党も農政に関する政策を掲げてはいますが、明確な対抗軸として機能しているとは言い難い状況です。

  • 立憲民主党:政府農政への批判を行うものの、改革案には具体性が乏しい傾向があります。

  • 共産党:国際競争への警戒感が強く、保護強化を主張しています。

  • 国民民主党:所得補償や担い手支援に力を入れていますが、影響力は限定的です。

  • 日本維新の会:農協改革や市場原理の導入に前向きですが、農村部との信頼関係構築には課題があります。

その結果、与党内の改革停滞に対する「外圧」が機能しておらず、有権者にとって選択肢としての対立軸が見えにくくなっています。

▶︎ポイント:野党の不在により、農政改革に関して有権者が選べる選択肢が著しく限定されてしまっています。

5. 誰のための農政か?「ルール」の正体を問い直す

2025年5月末、鹿児島県で開催された自民党の会合において、野村哲郎元農水大臣は、小泉進次郎農水大臣が政府備蓄米の随意契約による放出を党内の農林部会に諮らずに決定したことについて、「ルールを覚えていただかなきゃいかん」と苦言を呈しました

この「ルール」とは、自民党内での政策決定において、農林部会などの党内手続きを経るという慣例を指します。しかし、今回の備蓄米放出は、コメの価格高騰という緊急事態への対応であり、小泉大臣は「大臣としての責任で判断した」と述べています

小泉大臣の判断は、米価格の急騰という緊急事態への迅速な対応として評価する声もある一方、野村氏のような農林族議員はこうした慣例軽視に強く反発しています。その背景には、農協(JA)との強い結びつきと、選挙での支援体制の維持があると指摘されています。

加えて注目すべきなのは、農協や関連団体が自民党農林族議員に多額の政治献金を行っている事実です。2024年時点でも、JAグループなどからの献金は年間数千万円規模にのぼり、特定の議員や政治団体に集中しています。こうした経済的な支援と見返りの関係が、党内手続き=「ルール」への固執を強化していると考えられます。

今回、小泉進次郎農水大臣に苦言を呈した野村哲郎元農水大臣も過去10年間で約7000万の献金を受けていると言われており、農林族とJAは票田だけでなく経済的な結びつきが強いことがルールへの固執に繋がっていると考えられます。

※参考(Yahoo!ニュース):《総額約7000万円》小泉進次郎農相に苦言で批判殺到、野村哲郎元農相(81)が巨額“JAマネー”をもらっていた

この構図の中では、「農政」が国民全体の利益のためにあるのか、それとも特定の団体や支持基盤のためのものであるのかが不透明になります。形式としてのルールではなく、その背後にある「力学」を可視化し、問い直すことが今求められているのではないでしょうか。

▶︎ポイント: 農政は“誰のため”にあるのか。この原点を、いまこそ問い直す必要があります。

6.投票でしか変えられない現実があります

農業政策は、私たちの毎日の食卓、地域経済、そして未来の環境にも深く関わっています。にもかかわらず、政策決定の場は閉ざされ、現状維持が続いています。もし変化を望むのであれば、私たち自身が行動を起こすしかありません。

選挙は、その第一歩になります。与党の姿勢だけでなく、野党がどのような農政ビジョンを掲げているのかを見極めることが大切です。声を上げる人が増えれば、政治もそれを無視できなくなります。

「どうせ何も変わらない」ではなく、「変えるために投票する」——その一票が、農政改革の未来を左右します。

▶︎ポイント:政策を動かす力は、有権者一人ひとりの投票にこそ宿っています。

改革の主体は、私たち自身です

農政改革の遅れは、既得権益を守ろうとする政治の構造と深く結びついています。与党内の農林族議員による「ルール」への固執、野党の改革への明確な姿勢の欠如、そしてそれを支える政治献金の構図——こうした背景が、変わるべき政策を停滞させてきました。

しかし、このまま放置すれば、気候変動や人口減少のなかで、日本の農業はますます持続可能性を失っていくでしょう。変化を起こせるのは、結局のところ「有権者」である私たち一人ひとりです。

まもなく、参議院選挙が行われます。農政改革に本気で取り組もうとしているのは誰か、誰が既得権に守られた構造の中にいるのか。候補者や政党の政策に目を向け、投票という形で意思を示すことが、改革への第一歩になります。