もしも、がんや難病で高額な治療が必要になったら?突然の事故で長期入院することになったら? 「医療費が払えるだろうか…」そんな不安を抱える方も少なくないでしょう。
しかし、日本には「高額療養費制度」という、家計を医療費の負担から守るための心強い制度があります。この制度を正しく理解し、活用することで、もしもの時も安心して治療に専念できます。
この記事では、高額療養費制度の仕組みから、利用条件、申請方法まで、分かりやすく解説します。
1. 高額療養費制度とは?
高額療養費制度は、ひと月(月の初めから終わりまで)に医療機関の窓口で支払った医療費が、ご自身の所得や年齢に応じた自己負担限度額を超えた場合に、その超えた分の金額が払い戻される制度です。
この制度は、日本の公的医療保険に加入している全ての方が利用できます。
制度のポイント
- 対象: 公的医療保険が適用される医療費のみが対象です。
- 対象外: 差額ベッド代、入院中の食事代、先進医療にかかる費用などは含まれません。
- 計算単位: 月ごと(1日〜月末)、医療機関ごと(入院・外来・歯科は別々)に計算されます。
- 世帯合算: 同一世帯で複数の医療費がかかった場合、自己負担額を合算して計算できます。
2. あなたの自己負担限度額は?所得別の目安
自己負担限度額は、年齢(70歳未満か70歳以上か)と所得によって決まります。ここでは、多くの現役世代が該当する70歳未満の方の限度額(2025年7月までの基準)をご紹介します。
自己負担限度額の計算例
例えば、年収約400万円の方が、ひと月に総医療費100万円(自己負担額30万円)の治療を受けた場合、いくら払い戻されるのでしょうか?
この方の所得区分は「年収約370万円〜約770万円」に該当し、自己負担限度額は以下の計算式で求められます。
80,100円 + (総医療費 – 267,000円) × 1%
この式に当てはめると、自己負担限度額は約87,430円となります。
計算式:
したがって、窓口で支払った30万円から限度額の87,430円を引いた約21万円が払い戻されます。
所得区分ごとの自己負担限度額(70歳未満)
- 年収約1,160万円以上: 252,600円 + (総医療費 – 842,000円) × 1%
- 年収約770万円〜約1,160万円: 167,400円 + (総医療費 – 558,000円) × 1%
- 年収約370万円〜約770万円: 80,100円 + (総医療費 – 267,000円) × 1%
- 年収〜約370万円: 57,600円
- 住民税非課税世帯: 35,400円
※直近1年間で高額療養費の支給を3回以上受けている場合(多数回該当)は、上限額がさらに引き下がります。
3. 利用方法は2つ!スムーズな手続きのために
高額療養費制度を利用するには、主に以下の2つの方法があります。
① 事後申請(払い戻し)
医療機関の窓口で一旦、自己負担分を全額支払った後、後日、ご自身が加入している健康保険に申請して払い戻しを受ける方法です。申請には、医療機関の領収書などが必要です。
② 事前申請(「限度額適用認定証」の活用)
医療費が高額になることが事前に分かっている場合、入院や手術の前に「限度額適用認定証」を申請・取得し、医療機関の窓口で提示する方法です。この認定証を提示することで、窓口での支払いが自己負担限度額までで済み、一時的な立て替えが不要になります。
4. マイナ保険証があれば手続きがもっと簡単に
健康保険証として利用登録したマイナンバーカード(マイナ保険証)をお持ちの方は、高額療養費制度の利用手続きがさらに便利になります。
窓口での支払いが自動的に上限額までに
オンライン資格確認を導入している医療機関や薬局では、窓口でマイナ保険証を読み取り機にかざすだけで、手続きが完了します。
- マイナ保険証をかざす: 医療機関の窓口にあるカードリーダーにマイナ保険証を置きます。
- 本人確認: 顔認証や暗証番号で本人確認を行います。
- 限度額情報の提供に同意: 画面に表示される案内に従って、高額療養費制度の限度額情報を医療機関に提供することに「同意する」を選択します。
- 自動で計算: 医療機関がオンラインであなたの所得区分と自己負担限度額を即座に確認し、窓口での支払額が最初から自己負担限度額までに自動的に抑えられます。
これにより、本来は後から申請して払い戻しを受けるはずだった高額な医療費を、一時的に立て替える必要がなくなります。事前に「限度額適用認定証」を役所や健保組合に申請しに行く手間も不要です。
💡 あなたのマイナンバーカードは「マイナ保険証」になっていますか?
マイナンバーカードを持っているだけでは、保険証としては使えません。自分で「利用登録」という手続きをする必要があります。
もし登録したか不安なら、以下の方法で簡単に確認できます。
- マイナポータルで確認: スマートフォンやパソコンでマイナポータルにログインし、「健康保険証」の項目で登録状況を確認できます。
- 医療機関のカードリーダーで試す: オンライン資格確認に対応している病院の窓口でカードをかざしてみましょう。登録が済んでいなければ、その場で登録手続きを案内してもらえます。
オンライン資格確認を導入していない医療機関の見分け方
残念ながら、まだ全ての医療機関がオンライン資格確認に対応しているわけではありません。以下の方法で、事前に確認できます。
- 院内の掲示物を確認する: 受付や待合室に「マイナ受付」「マイナンバーカードが保険証として使えます」といったポスターやステッカーが貼ってあれば対応済みです。
- 厚生労働省のウェブサイトで検索する: 厚生労働省は、対応済みの医療機関・薬局のリストを都道府県別に公開しています。
- 病院検索サイトで絞り込む: 多くの病院検索サイトに「マイナ保険証対応」の検索機能があります。
もし非対応の医療機関だった場合は、マイナ保険証を使っても「限度額情報」は確認できません。窓口では、全額(3割負担など)を支払うことになり、後日ご自身で健康保険に事後申請(払い戻し)の手続きをする必要があります。
事後申請と事前申請、どちらが良い?
- 事後申請(払い戻し): 一時的に高額な医療費を立て替える必要がありますが、特別な手続きは不要です。払い戻しには数か月かかる場合があります。
- 事前申請(認定証): 窓口での支払いが最初から上限額までで済みますが、事前に認定証の申請手続きが必要です。
- マイナ保険証利用: 事前の手続きが一切不要で、窓口での支払いが上限額までで済みます。ただし、オンライン資格確認を導入していない医療機関では利用できません。
このように、マイナ保険証を利用することは、「手続きの手間」と「一時的な金銭負担」の両方を軽減できる点で、最も便利な方法と言えます。
マイナ保険証が使えない場合は?
すべての医療機関がオンライン資格確認を導入しているわけではありません。もし受診する医療機関が対応していない場合や、マイナ保険証を持参しなかった場合は、従来通り以下の方法で高額療養費制度を利用できます。
- 事前申請: 事前に「限度額適用認定証」を申請・取得し、窓口で提示する。
- 事後申請: 一度全額を支払い、後日、ご自身の健康保険に払い戻しを申請する。
2024年12月2日以降、従来の紙やカードの健康保険証は新規に発行されなくなります。お持ちの健康保険証は有効期限まで使えますが、マイナ保険証を利用しない方には「資格確認書」が交付されます。
事後申請と事前申請、どちらが良い?
- 事後申請(払い戻し): 一時的に高額な医療費を立て替える必要がありますが、特別な手続きは不要です。払い戻しまでには数か月かかる場合があります。
- 事前申請(認定証): 窓口での支払いが最初から上限額までで済みますが、事前に認定証の申請手続きが必要です。
- マイナ保険証利用: 事前の手続きが一切不要で、窓口での支払いが上限額までで済みます。ただし、オンライン資格確認を導入していない医療機関では利用できません。
このように、マイナ保険証を利用することは、「手続きの手間」と「一時的な金銭負担」の両方を軽減できる点で、最も便利な方法と言えます。
5. 負担額の引き上げは今後どうなる?
高額療養費制度は、日本の医療を支える重要な柱です。持続可能性を高めるため、今後の高齢化や医療費の増大に伴って、将来的に自己負担額が見直される可能性は十分にあります。
直近では、2025年8月に予定されていた一部所得区分の負担額引き上げが、国民の負担増や不安を考慮して見送られることになりました。しかし、これは引き上げが完全に撤回されたわけではなく、今後の社会保障制度全体の見直しの中で、改めて議論・検討されることになります。
制度の最新情報は、厚生労働省やご自身の加入する健康保険のウェブサイトで確認するようにしましょう。
まとめ
高額療養費制度は、誰もが安心して医療を受けられるようにするための大切なセーフティネットです。万が一に備え、この制度の仕組みと申請方法をぜひ覚えておきましょう。
ご自身の健康保険の詳細は、保険証に記載されている保険者(健康保険組合、市区町村の窓口など)にご確認ください。