2025年7月に投開票を迎える東京都議会議員選挙が公示され、都民の代表を選ぶ重要な一週間が始まりました。各候補者がそれぞれの政策を訴える中、私たちは有権者として、どのような基準で一票を投じるべきでしょうか。
都議選の熱気の中で、しばしば見過ごされがちなのが「政治とカネ」の問題です。特に、過去に報じられた自民党東京都連を巡る裏金疑惑は、その後の選挙戦や政治の場で十分に検証されたとは言い難い状況にあります。
繰り返される「裏金問題」の影
自民党都連の裏金問題とは、党の政治資金収支報告書に記載されない形での資金の流れが指摘されたものです。政治資金規正法は、政治活動の透明性を確保し、国民の政治に対する信頼を確保することを目的としています。しかし、裏金疑惑は、この法の精神に真っ向から反するものであり、その責任は厳しく問われるべきです。
実際、最近の報道(2025年1月頃)でも、自民党都連は2023年に開催した政治資金パーティーにおいて、一部の収入を収支報告書に不記載としていたことが指摘され、その後、都連側は不記載を認め、収支報告書を修正すると説明しています。これは、国政レベルで派閥の裏金問題が発覚した後も、同様の不適切な会計処理が都連内でも続いていた可能性を示唆しています。
過去の教訓は活かされたのか?――問い直される「反省」と「対策」
特筆すべきは、このような「政治とカネ」を巡る問題が、自民党において今回が初めてではないという事実です。過去にも、政治資金規正法違反や、不適切な資金管理などが繰り返し指摘されてきました。その度に、党は「深く反省し、再発防止を徹底する」と表明し、政治資金規正法の改正を含む様々な対策を講じてきたはずです。
では、今回の自民党都連の裏金問題は、過去の教訓が本当に活かされ、真摯な反省と対策が実行されてきた結果と言えるのでしょうか? 国政での裏金問題に続いて都連でも同様の不記載が発覚したことは、過去の「反省」が形骸化し、対策が不十分であったことを示唆しているのではないでしょうか。
自民党は、国政レベルでの裏金問題に対し、関係議員への党内処分を行い、政治資金の透明性を高めるための取り組みを掲げました。今回の都議選においても、党としては「不記載問題を受けた政治資金の透明性を高める取り組みを掲げる」と報じられています。
しかし、肝心なのは、これらが単なる弥縫策に過ぎず、問題の根源にある「政治とカネ」に対する意識や慣行が変わっていないのではないかという疑念です。過去の教訓を踏まえ、今回の都連の対応が、真の「反省の色」を示し、実効性のある再発防止策となっているのか。私たちは有権者として、その実態を厳しく見極める必要があります。
具体策なき「反省」は形骸化の証か?――有権者への警鐘
しかし、ここで私たち有権者が問うべきは、「透明性を高める取り組み」という言葉の具体性です。現時点(2025年6月14日)で、自民党都連から、裏金問題の再発を防ぐための具体的な措置、例えば、パーティー券販売の抜本的な透明化策、会計責任者への厳格な罰則や研修、第三者機関による監査の義務化など、実効性のある再発防止策の詳細が示されているとは言えません。
さらに懸念されるのは、今回の都連の裏金問題における「責任の取り方」です。2025年1月頃の報道によれば、都連の会計担当職員は略式起訴され有罪となったものの、不記載に関与した都議会議員20名以上については、個々の不記載額が少額であることなどを理由に、特捜部は嫌疑不十分で刑事訴追を見送っています。 その後、都議会自民党は、不記載があった原職都議16名に対し、都議会および会派における「役職停止処分」(原則1年間)を科すと発表しましたが、政治団体としての「都議会自民党」は解散したものの、会派としては存続しています。
この一連の対応は、「深く反省し、再発防止を徹底する」という言葉とは裏腹に、自分たちへの処分には極めて甘い姿勢を示しているとしか見えません。刑事訴追が見送られ、党内処分も限定的である現状は、再び裏金事件を起こせるような「抜け穴」を意図的に残しているのではないか、という疑念を拭い去ることができません。
昨年の衆議院選挙で自民党が議席を大きく減らしたことは、国民の「政治とカネ」に対する厳しい審判の結果でした。しかし、その後の党の対応が「口頭での反省」に留まり、具体的な抜本改革が見えないことから、「これで禊が済んだ」とばかりに、過去の問題を「なかったこと」にしようとしているのではないか、という疑念が払拭できていません。
今回の都議選においても、もし自民党の候補者が多く当選するようなことがあれば、都民が「裏金問題はすでに解決済み」と判断したと受け取られかねません。 都議会議員の裏金問題は、国政ほど大々的に報道される機会が少ないため、有権者の関心が薄れやすいという側面もあります。しかし、だからこそ、この問題に対する厳しすぎるほどの有権者の視線が、都議会における「政治とカネ」の透明化を真に実現するために不可欠なのです。
具体的な再発防止策を示さず、曖昧な言葉に終始するのであれば、それは「反省などしておらず、同じことをこれからも繰り返すつもりではないか」という、有権者への無言のメッセージと受け取られても仕方がありません。
都議会で可決された政治倫理条例も、政治資金の透明化に一定の役割を果たすと期待される一方で、「裏金自民免罪条例だ」という批判があるように、その実効性には依然として疑問符がついています。私たちは、今回の選挙で、真に「政治とカネ」の問題と向き合う覚悟のある候補者、政党を選ぶ必要があります。
なぜ今、この問題を想起する必要があるのか
東京都議会議員は、約1400万人の都民の生活に直結する予算編成や条例制定に関わる重要な役割を担っています。都民の税金が適正に使われ、透明性の高い都政が運営されるためには、政治家自身の倫理観と、それを監視する有権者の意識が不可欠です。
過去の裏金問題が、単なる「過ぎたこと」として忘れ去られるとすれば、それは政治家にとって説明責任を果たさずに済むという安易な前例を作ってしまいかねません。選挙期間中である今こそ、私たちは改めて、政治家が「カネ」に対してどのように向き合ってきたのか、そしてこれからどう向き合っていくのかを問うべき時です。
他の会派・政党の姿勢にも目を向ける必要性
「政治とカネ」の問題は、決して特定の政党だけのものではありません。都議会には自民党以外にも様々な会派や政党が存在し、それぞれの「政治とカネ」に対する姿勢は異なります。有権者は、自民党都連の問題を注視するだけでなく、他の会派や政党が、政治資金の透明化や再発防止に関してどのような具体的な公約を掲げているか、過去に同様の問題はなかったか、その説明責任を果たしているかにも目を向けるべきです。
一部の政党は、企業・団体献金の禁止や政策活動費の使途公開を強く主張するなど、より踏み込んだ透明化策を訴えている場合もあります。多様な選択肢の中から、真に都民の信頼に応えようとする政治家を見極めることが、健全な都政を築く上で不可欠です。
あなたの一票が、都政の未来を動かす
今回の東京都議会議員選挙は、単なる政策の優劣を決める場ではありません。それは、都政における「政治とカネ」のあり方を根本から問い直し、透明性と公正さを追求する、私たち有権者自身の意志表示の場です。
- 候補者の政治資金報告書を積極的に確認しましょう。 東京都選挙管理委員会のウェブサイトなどで公開されています。どのような団体から、どれくらいの寄付やパーティー収入があるのか、詳細をチェックすることで、候補者の「カネ」に対する姿勢が見えてきます。
- 候補者の発言に耳を傾け、積極的に問いかけましょう。 「政治とカネ」の問題について、候補者がどのような見解を示し、具体的な再発防止策を提示しているかを確認しましょう。特に、過去の「反省」が今回の対策にどう繋がっているのか、その実効性について問いかける姿勢が求められます。疑問があれば、公開討論会や個人演説会などで直接質問することも検討しましょう。
- 信頼できる情報源から、情報を収集し、友人や家族と議論しましょう。 メディアやジャーナリズムからの報道、または市民団体による検証活動にも注目し、多角的な視点から問題を捉えることが重要です。
透明で公正な都政を目指して
私たちは、一票を投じることで、未来の都政のあり方を決定します。単なる政策論争だけでなく、政治家一人ひとりの倫理観や透明性に対する姿勢もまた、重要な判断基準となるはずです。
今回の東京都議会議員選挙が、単なる選挙戦に終わることなく、都民の政治に対する信頼回復の第一歩となることを心から願ってやみません。 腐敗を許さず、透明性の高い都政を実現できるかどうかは、私たち一人ひとりの選択にかかっています。未来の東京のために、主権者としての権利を最大限に行使しましょう。
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