❖ 和牛のルーツが辿り着いた「幻の血統」
あなたが今まで食べてきた、すべての高級和牛。その味わいの「原点」が、たった一つの血統にあるとしたら、驚かないでしょうか?
世界に誇る神戸ビーフや松阪牛など、誰もが知る最高峰の和牛たち。彼らの遺伝子を辿ると、必ず一つの共通点に突き当たります。それが、兵庫県が誇る但馬牛(たじまうし)です。
しかし、但馬牛の凄さは「ルーツ」であることだけではありません。その純粋な血統を守り抜いた「奇跡の純血」の存在を知れば、あなたの和牛体験は完全に塗り替えられます。この特別な牛の物語を、紐解いていきましょう。
❖ 日本が誇る高級和牛の「親」としての立ち位置
但馬牛は、単なる地方のブランド牛ではなく、日本の和牛全体の品質を支える「最高峰の種牛」としての歴史を持っています。
-
神戸ビーフの母体: 但馬牛は、世界的に有名な神戸ビーフになるための唯一の母体です。但馬牛の厳しい基準を満たし、さらに厳しい肉質等級をクリアしたものだけが神戸ビーフを名乗ることができます。
-
全国の改良に貢献: 松阪牛や近江牛をはじめとする多くの銘柄牛も、明治時代以降、但馬地方から導入された優秀な血統を取り入れ、品種改良を行ってきました。つまり、但馬牛の持つ良質な遺伝子が、現代の高級和牛の基礎を作り上げているのです。
この類まれな遺伝子の強さこそが、但馬牛が和牛の「頂点」に位置する所以です。
❖ 血統の秘密:純但馬牛が守り続けるもの
「和牛の頂点」である但馬牛のなかで、さらに特別とされるのが「純但馬牛」です。
「純但馬牛」とは、他の血統との交配を一切行わず、但馬牛の系統同士でのみ交配を繰り返して育まれた、極めて純度の高い牛を指します。
この徹底した血統管理(閉鎖育種)は、但馬牛が本来持つ素晴らしい肉質の遺伝子を、現代にそのまま継承していくための生産者の強いこだわりです。
-
現代の和牛では極めて稀な存在
-
但馬牛全体の生産頭数の中でも、純血を名乗れるのはごくわずか
このように、純但馬牛は市場に出回る数が少なく、和牛の原点のなかでも「幻の純血」と呼ばれるほど、その価値と希少性が高いのです。
❖ 極上の肉質:五感を満たす「口どけ」と「香り」
純血統を守り抜くこと。それは、究極の肉質のポテンシャルを最大限に引き出すことと同義です。純但馬牛の肉質の特徴は、特に「脂の質」に表れます。
* 溶けるような口どけ(低い融点)
純但馬牛の脂は、人間の体温よりも低い温度で溶け出す融点の低さが特徴です。口に入れた瞬間、舌の上でスッと溶けていくため、しつこさがなく、重さを感じさせません。この「口どけの良さ」こそが、純血がもたらす最大の魅力の一つです。
* 芳醇な「和牛香」の秘密
さらに、純但馬牛は加熱した際に、上質な乳製品や桃のような甘い香りを放つ「和牛香(わぎゅうこう)」を強く持っていると言われています。この香りが、肉の旨みと相まって、食後の満足感を一層高めてくれます。
❖ 和牛の原点を継承する、生産者の熱い想い
日本の和牛界において、純但馬牛は単なる「おいしい肉」という枠を超えた、生きた文化財のような存在です。
但馬の生産者たちは、時代が変わっても、和牛の原点であるこの純血統を守り続けることに誇りと情熱を注いでいます。もし、純但馬牛に出会う機会があれば、それは日本の和牛の歴史そのものを味わう特別な体験となるでしょう。ぜひその一口で、純血がもたらす奇跡的な旨味と、生産者の熱い想いを感じてみてください。
❖ 幻の純血を味わうには:純但馬牛の主な提供場所
純但馬牛は極めて希少なため、安定して提供している店舗は限られますが、主に以下の場所で出会える可能性があります。
-
専門の和焼肉レストラン(都市部)
-
代表的な例が、JR東京駅のグランスタ東京にある「純但馬牛 美方」など、純但馬牛を専門的に扱う店舗です。純血統の肉質を最大限に活かす調理法で提供されます。
-
-
兵庫県但馬地域の直営店・提携店
-
産地に近い但馬地域や神戸などのレストランや旅館が、生産者と直接提携し、新鮮で質の高い純但馬牛を特別メニューとして提供していることがあります。
-
-
ごく一部の高級ステーキハウス
-
一頭買いなど、稀少な牛を定期的に仕入れている、こだわりの強い高級レストランで提供される場合があります。
-
【注意点】 純但馬牛は仕入れが不安定なため、お目当ての店舗へ訪問する際は、事前に公式サイトなどで提供状況を確認することをおすすめします。
❓ FAQ:純但馬牛に関するよくある質問
Q1. 純但馬牛と神戸ビーフの違いは何ですか?
A. 純但馬牛は「血統の称号」、神戸ビーフは「格付けの称号」です。 純但馬牛は、但馬牛の純粋な血統を守っている牛を指します。一方で神戸ビーフは、但馬牛のなかから、肉質等級や脂肪交雑(BMS)など、非常に厳しい基準をクリアしたものだけが名乗れるブランド名です。つまり、純但馬牛が、最高の肉質基準を満たせば神戸ビーフにもなり得ます。
Q2. 「閉鎖育種(へいさいくしゅ)」とは具体的にどういう意味ですか?
A. 「閉鎖育種」とは、但馬牛の優れた遺伝子を守り続けるため、但馬地域内で飼育されている牛同士でのみ交配を繰り返す、厳しい血統管理の方法です。外部の血統を一切入れないことで、但馬牛本来の肉質の良さを安定して次世代に伝えています。
Q3. なぜ、純但馬牛の「未経産の雌牛」が特に珍重されるのですか?
A. 一般的に、未経産の雌牛は、雄牛や経産牛に比べて脂肪の融点が低い傾向にあります。融点が低いほど口どけが良く、きめ細かく柔らかな肉質になるため、最高の味わいを持つと珍重されます。

