食卓を脅かす米高騰、原因は「政治」にあり? 自民党が招く農政改革の後退 | マーケターのつぶやき

食卓を脅かす米高騰、原因は「政治」にあり? 自民党が招く農政改革の後退

この夏、全国各地のJA(農業協同組合)から驚くべきニュースが飛び込んできた。令和7年産米の概算金、つまりJAが農家から米を買い取る際の「前払い金」が、軒並み大幅に引き上げられているのだ。地域によっては、昨年の1.7倍という異例の高値で設定されたケースもある。

この概算金の引き上げは、そのまま店頭での「新米」の小売価格に反映される可能性が極めて高い。すでに、店頭では10kg5,000円を超える商品が珍しくなくなり、消費者の家計を圧迫している。

なぜ、ここまで価格が引き上げられたのか? その背景には、昨年の猛暑による作柄不良、生産資材の高騰、そして米の供給不足から生じた熾烈な集荷競争がある。しかし、これらはあくまで短期的な要因に過ぎない。

専門家が口を揃えるのは、長年にわたって停滞してきた日本の「農政改革」にこそ、根本的な問題があるという点だ。

小泉大臣の奔走も、根深い構造の前に

米価高騰が顕在化すると、就任したばかりの小泉進次郎大臣は「コメ担当大臣」を自任し、対策に奔走した。これまでの入札形式だった備蓄米の放出を、大手小売業者との直接契約(随意契約)に切り替えるなど、迅速な対応で消費者への価格転嫁を少しでも抑えようと努めた。

この行動は、これまでの行政にはなかった「スピード感」として評価する声も多い。だが、彼の取り組みは備蓄米の放出だけに留まらない。米価の動向を正確に把握し、流通のボトルネックを解消するための専門チームを立ち上げたり、生産者や流通業者に対して在庫や価格形成の透明化を促したりするなど、長期的な視点に立った施策も進めている。

しかし、これらの施策は、抜本的な生産構造の改革を伴わない限り、その効果は限定的だ。流通改善や情報公開は確かに重要な措置だが、その効果が消費者に届くまでには長い時間を要する。結局のところ、日本の農業が国際競争力のある大規模経営へ転換できず、生産性の低い小規模な兼業農家が温存されてきた構造にメスを入れない限り、生産コストの上昇は米価に転嫁され続け、価格高騰は止まらない。

農政改革を阻む三つの大きな壁

なぜ、日本の農政改革はこれほどまでに進まないのか。そこには、三つの大きな壁が存在する。

一つ目は、JAグループの強力な政治力だ。JAは、組織票や政治献金を通じて自民党の農林族議員に強い影響力を持つ。JAは農家の集荷・販売を担うだけでなく、金融や共済事業も手掛けており、JAの意向に反する改革は、政治的な支持基盤を揺るがしかねない。

二つ目は、小規模な兼業農家の存在だ。日本の農地の多くは、農業所得への依存度が低い兼業農家や高齢者が所有している。彼らは将来の宅地転用などの思惑から農地を手放そうとしないケースが多く、大規模で効率的な農業経営に必要な「農地の集約」が妨げられている。

そして三つ目は、食料安全保障と市場原理のジレンマだ。政府は食料自給率の向上を掲げる一方で、価格補償や生産調整といった保護的な政策に依存してきた。これにより、農家は市場の競争にさらされることなく経営を維持できる反面、生産性の向上やコスト削減への意欲が削がれ、国際競争力のある農業への転換が進んでいない。

日本の食卓を守るために必要なこと

米の価格高騰を解決し、日本の農業の未来を守るには、単なる対症療法ではない、抜本的な改革が不可欠だ。具体的には、以下の3つの柱が必要となる。

  1. 農地の集約と大規模化の加速:生産性を向上させるには、小規模・零細な農地を一つにまとめ、効率的な農業経営を可能にする必要がある。
  2. 保護政策から競争原理への転換:価格補償や生産調整といった保護的な政策から脱却し、生産者が市場のニーズに応じた高品質な米を自由に生産・販売できる環境を整備する。これにより、コスト削減や付加価値競争が促される。
  3. 柔軟な米の輸入制度の構築:国内生産が不足し価格が高騰した際には、緊急的に米の輸入制限を緩和し、市場への供給量を増やす。これにより、価格の安定を図り、消費者の負担を軽減する。
  4. 技術革新への大胆な投資:スマート農業やロボット技術を導入し、少ない労働力でも高い生産性を実現する。これにより、農業を魅力的な産業へと変革し、新たな担い手を呼び込む。

改革を阻む「政治」の動きと、加速する日本の米離れ

本来であれば、こうした改革を政府が主導すべきだ。しかし、その動きに「待った」をかけているのが、皮肉にも与党・自民党の農林族、通称「農水族」だ。

彼らは、今回の米価高騰を機に、旧態依然とした保護的な農政への回帰を示唆する動きを見せている。例えば、JAグループと足並みをそろえ、価格維持を目的とした事実上の**「減反」**を求める声が再び上がり、さらに、既存の農業予算とは別に、新たな大幅な予算確保を政府に求めるなど、対症療法的な支援策に固執している。

そして、自民党が、米政策を議論する新たな組織「農業構造転換推進委員会」を立ち上げたのも、これらの動きの一環だ。これは、一見、改革に前向きな姿勢に見える。しかし、その内実には複数の政治的な思惑が透けて見える。

まず、「改革のポーズを取りつつ、実態は温存する」という狙いだ。委員会名に「構造転換」と銘打つことで、世論の期待に応えているかのように見せながら、そのトップに、従来の農林族の代表格であり、JAとの関係が深い江藤拓氏を据えた。これは、抜本的な改革ではなく、既存の利害関係に配慮した議論に留めようとする意図がうかがえる。

また、来たる総選挙を見据えた組織票の固めという側面もある。江藤氏の起用は、JAグループや小規模農家に対し、「あなたたちの声を聴く窓口は党内にしっかりとある」というメッセージを送り、支持基盤を強固にする目的があると考えられている。

そして、小泉大臣の独自路線への牽制も背景にある。小泉大臣の「スピード重視」の姿勢は、旧来の農林族やJAからすれば、自分たちのコントロール下から外れる動きと見なされかねない。新たな委員会を立ち上げ、自分たちの影響下にある人物をトップに据えることで、農政の主導権を再び党の主流派に戻そうとする狙いだ。

こうした「農水族」による改革阻止の動きは、短期的な米価の高止まりを招くだけではない。長期的には、日本の農業そのものを衰退させる「負のスパイラル」を加速させる。

事実、現在の米価高騰を受けて、日本ではすでに米離れが進みつつある。高い関税がかかっているはずのカリフォルニア米が、国内産米よりも安価で市場に出回り、消費者がそちらを選ぶケースが増えている。さらに、隣国韓国への旅行のついでに、安価な米を購入して帰国する日本人が現れるという、驚くべき現象まで報じられている。

食卓の危機は、農水族の政治が招いた

消費者から見れば、食卓の危機は、政治の危機に他ならない。

米の価格高騰は、長年放置されてきた日本の農政の構造的な矛盾が、いよいよ限界に達したことを示している。このままでは、米の価格は高止まりし、やがては日本の農業そのものが衰退していく可能性すらある。

小泉大臣のような一時の「スピード感」だけでは、この問題は解決しない。真の農政改革を阻むのは、他ならぬ農水族の政治だ。

私たち消費者は、ただ値上がりを受け入れるだけでなく、この状況を作り出した政治に問題提起をする必要がある。日本の食卓と農業の未来を、真剣に考えるのであれば、選挙の場で、誰が真に改革を進めようとしているのか、誰が旧態依然とした構造にしがみついているのか、を問い直す時期に来ているのかもしれない。