6月3日 17:53 自民党が見送った「基礎年金底上げ案」とは?──就職氷河期世代に届かなかった支援策の行方 | マーケターのつぶやき

自民党が見送った「基礎年金底上げ案」とは?──就職氷河期世代に届かなかった支援策の行方

2025年4月に自民党内で検討されていた「基礎年金の底上げ案」が見送られることになりました。就職氷河期世代や低所得の年金受給者にとっては福音となる可能性があっただけに、「なぜ今、見送られたのか?」と疑問を抱いた方も多いでしょう。

今回は、基礎年金底上げの内容と、それが見送られた背景、与野党の姿勢、そして今後の見通しなどについて、ご紹介します。

■ 基礎年金底上げ案とは?

基礎年金底上げ案とは、年金を十分に受け取れない低所得の高齢者に対し、所得保障の強化を図る制度です。具体的には、保険料の納付期間が短く、年金額が少ない人でも、ある一定の金額を下回らないように「最低保障」の仕組みを加えるというものでした。

この制度の対象になるのは、主に以下のような人たちです。

  • 就職氷河期に正社員になれず、非正規で働いてきた世代

  • 専業主婦や短時間労働者など、厚生年金に加入できなかった層

  • 納付期間が25年に満たず無年金や低年金になっている高齢者

こうした人々の生活保障と老後の貧困対策として、基礎年金の底上げは強い社会的ニーズがありました。

■ なぜ見送られたのか?自民党内の反対がカギ

当初、政府は2025年の年金制度改正法案にこの案を盛り込む方向で調整していました。しかし、最終的に自民党内の厚生労働部会で「財源確保が困難」「現役世代の負担増になる」として反対意見が相次ぎ、見送りが決定されました。

さらに、厚生年金の適用拡大(パート労働者などへの加入義務拡大)や、報酬比例部分の受給開始年齢柔軟化など、比較的合意の得やすい項目だけが法案に残され、基礎年金底上げは削除されました。

なぜこのタイミングで検討されたのか?

ポイントは2つあります。

  • 2024年の年金財政検証を控え、制度の持続性と給付水準の見直しが注目されていた

  • 氷河期世代支援の一環として、社会保障面での補足的政策が求められていた

制度的にも政治的にも、「今なら実現できるかもしれない」というムードが一時期あったのです。

それでもなぜ見送られたのか?政治的な理由と財源問題

ところが、2024年後半になってこの案は急速にトーンダウン。2025年の通常国会での法案提出は見送られ、事実上の「棚上げ」となりました。

背景には、次のような要因が挙げられます:

  • 参院選前で“給付だけが増える制度改革”は財源論が避けられず、与党が慎重に

  • 自民・公明間で調整が難航

  • 財務省が「財源確保が不透明」として牽制

与党内でも、「必要性は理解するが、今ではない」という空気が強まりました。これにより、選挙後への先送りという形で棚上げされたのです。

各政党のスタンス:誰が賛成で、誰が慎重だったか?

以下は、政党ごとの主なスタンスの整理です(2024年時点の報道・公表資料に基づく)。

賛成・積極的

  • 日本共産党:格差是正・低年金対策として積極的。大企業・富裕層への課税強化で財源を主張。

  • れいわ新選組:ベーシックインカム的な視点も含め、最低保障機能の強化に前向き。

  • 国民民主党:就職氷河期世代や低年金者支援を重視し、基礎年金底上げに積極姿勢。独自修正案の検討も進める。

慎重・消極的

  • 自由民主党:選挙前の制度変更に慎重。財源論に課題を残し、最終的に見送り。

  • 公明党:社会保障全体の整合性や所得把握の困難性から慎重。

中立・検討中

  • 立憲民主党:方向性としては年金充実に前向きだが、制度設計と財源に課題。

  • 日本維新の会:社会保障の持続可能性と効率化を重視し、制度の抜本改革を志向。

なお、社会民主党(社民党)や参政党については、基礎年金底上げに関する明確な主張が確認できませんでした。今後の政策発表や公約に注目する必要があります。

このように、各政党の基礎年金底上げに対するスタンスは多様であり、選挙時の判断材料として重要です。有権者として、各党の政策や主張を比較し、自身の考えに合致する政党を選ぶことが求められます。

■ なぜ今、動かなかったのか?──選挙の影響

自民党がこの案を見送ったタイミングが「参院選の前」であることは、決して偶然ではありません。年金の底上げには多額の財源が必要であり、消費税の増税や給付と負担の見直しが避けられないため、選挙前に踏み込むと有権者の反発を招く可能性が高いのです。

そのため、政府は「選挙後に改めて議論する」としていますが、これは**過去にも何度も使われた“棚上げの常套句”**であり、実際には立ち消えになる例も少なくありません。

■ このまま放置されると、何が起きるのか?

この制度が実現しなければ、今後以下のような問題が拡大する懸念があります。

  • 就職氷河期世代や非正規労働者が、年金受給時に生活保護に頼るしかなくなる

  • 高齢者の貧困率が上昇し、医療・福祉予算の負担が増す

  • 現役世代の「将来に希望が持てない」感情が強まり、出生率・消費マインドの低下につながる

本来、「底上げ策」は短期的なコストを要しても、中長期的に社会保障費を抑制する投資でもあります。これを見送ることは、社会的コストの先送りに過ぎないとも言えます。

有権者として何を注視すべきか?

年金制度の改革は「遠い話」に聞こえがちですが、今回のように就職氷河期世代や非正規層など、現役世代にも直結する議論が進んでいます。

  • どの政党が何を重視しているのか?

  • 誰のための制度なのか?

  • 財源の議論をどう乗り越えるか?

これらは、まさに「私たちの選択」に委ねられています。

選挙は「将来を選ぶ場」。この問題を見過ごさないために

基礎年金底上げ案は、就職氷河期世代や低年金者にとって希望となる制度でしたが、選挙前の政治的判断によって見送られ、法案提出にも至りませんでした。

政府は「選挙後に再検討する」としていますが、現実には財源問題や政権内の温度差から、再び議論される可能性は低いと見られています。

しかし、私たち有権者がこのまま関心を失えば、こうした制度は再浮上することなく消えていくでしょう。

次の参院選では、「どの政党が年金改革に本気で向き合っているか」「現役世代や低年金層の暮らしを支える具体策があるか」をしっかりと見極めることが、未来の年金制度を形づくる第一歩になると思います。