6月3日 17:53 なぜ今、米がスーパーに戻ってきたのか?──小泉大臣の備蓄米放出で“誰かが焦った”可能性と構造的問題 | マーケターのつぶやき

なぜ今、米がスーパーに戻ってきたのか?──小泉大臣の備蓄米放出で“誰かが焦った”可能性と構造的問題

1. 米が突然店頭に戻ってきたという違和感

2024年後半から続いていた「米の品薄」。特に2kgや5kgといった日常用途の小袋サイズがスーパーやドラッグストアの棚から消え、「なぜ?」という疑問の声が全国に広がっていました。

ところが、2025年6月に入ってから、状況に変化が見られるようになっています。都内や地方のスーパーでも、「しばらく見かけなかったサイズの米が、価格は高いままだが戻ってきた」という報告が相次ぎました。

この“急な変化”には、一体何があったのでしょうか?その背景には、小泉進次郎農水大臣の備蓄米放出という大きな政策転換がありました。

2. 背景:なぜ米が長期間「なかった」のか?

2023年の天候不順による不作と、2024年の需要回復が重なり、米の需給バランスは一気にタイトになりました。とはいえ、需給がそこまで逼迫していたかというと疑問も残ります。農水省自身も「極端な不足ではない」として、備蓄米の市場放出に慎重な姿勢を貫いてきました。

一方、現実の店頭では長期間にわたり米が並ばず、多くの消費者が「買いたくても買えない」状態に直面していました。農家からの出荷が止まったわけでもなく、JA経由の流通も続いていた。それなのに、なぜ小売店の棚は空っぽだったのか。

この「流通の不自然な詰まり」こそが、大きな謎でした。

3. 小泉大臣の備蓄米放出とは何か?

2025年5月、小泉進次郎農水相は、政府の備蓄米(いわゆる「主食用米」)を随意契約方式で一部小売に直接放出するという異例の措置を打ち出しました。これは従来のような入札方式による大手業者中心の供給ではなく、中小のスーパーやドラッグストアにも届くように配慮されたものでした。

この方針転換が発表された直後から、明らかに店頭の品ぞろえに変化が現れました。備蓄米そのものが本格的に市場に流れ始めたのは6月に入ってからですが、奇妙なことに、「それ以前に止まっていたはずの既存の米」までもが、急に棚に並び始めたのです。

4. 卸問屋の営業利益500%増──備蓄米コストでは説明できない矛盾

小泉大臣が国会答弁で明かした「米卸の中には営業利益が前年比500%超となっている企業がある」という発言は、米価高騰の背景にある流通構造の問題を浮き彫りにしました。この発言は、単なる価格上昇ではなく、“誰が一番得をしているのか”という構造的疑問につながる重要なポイントです。

これに対し、業界側からは「備蓄米対応で人件費や袋詰めコストが増えているため、利益が増えたとは一概に言えない」とする釈明も一部で聞かれます。しかし、この反論には複数の点で矛盾があります。

営業利益とは何か?──コスト増を差し引いた後の利益

まず基本として、営業利益とは「売上高」から「売上原価(仕入れ・製造費)」と「販売管理費(人件費・物流費など)」を引いたものであり、企業活動の中核的な儲けを示す指標です。

仮に備蓄米の袋詰めや人件費などが大きく増加していたとしても、それらはすでに販管費として差し引かれているため、「営業利益が500%以上増加した」という事実を打ち消す根拠にはなりません。

さらに重要なのは、小泉大臣がこの数値を示した時点では、政府備蓄米はまだ市場に出回っていなかったという点です。つまり、「備蓄米対応コストが営業利益を押し上げた」という説明自体が成立しにくいのです。

実際に何が起きていたのか?──高値販売による利幅拡大の構図

こうした矛盾を踏まえると、より現実的な説明として浮かび上がるのは、「仕入れ価格が安かった既存米を、高騰後に高値で売っていた」ことで、利益率が跳ね上がったという構図です。

一部の卸業者は、昨年の相場が安い時期に仕入れた米を保有しており、それを市場価格が急騰した今年に入ってから販売すれば、同じ数量でも利益が何倍にも膨らむことになります。これが「営業利益500%増」の実態である可能性が極めて高いと見られています。

このような供給管理や“出し渋り”は、かねてから「ストップ取引」と呼ばれる慣行と関連していると指摘されてきました。

👇 この「ストップ取引」と米流通の裏側については、下記の記事で詳しく解説しています。
なぜお米の値段が上がった? 知られざる「スポット取引」の裏側

このような慣行によって、消費者が手に入れにくい一方で価格は上昇し、卸業者の利益が一気に跳ね上がるという「価格高騰の利益集中構造」が形成されていた可能性があります。

5. なぜ今になって既存の米が出てきたのか?──「誰かが焦った」構造的背景

スーパーやドラッグストアの棚から消えていた米が、2025年6月に入って急に並び始めた。その背景に、小泉農水相による備蓄米の放出方針があったことは確かですが、実際に流通し始めたのはその備蓄米ではなく、以前から“どこか”にあったはずの既存の米だった点が重要です。

では、なぜそれまで流通していなかった既存米が、急に市場に出回るようになったのか?
これは「誰かが米を止めていた」のではなく、「止めていた人たちが動き出した」と考える方が自然です。

以下のような理由が重なった可能性があります。

◉ 価格高騰の“天井”を意識し始めた

卸業者や一部の流通関係者は、米価がさらに高騰するのを見込んで在庫を保持していた可能性があります。しかし、政府による備蓄米の放出という政策転換は、「これ以上の高値では売れなくなるかもしれない」という判断材料となりました。結果、今出さなければ利益が最大化できないという“タイミング判断”から、一斉に市場へ放出が始まったと考えられます。

◉ 政府の“目”と世論の圧力に対する危機感

小泉大臣が「一部卸業者の営業利益が前年比500%増」と国会で指摘したことは、事実上の「名指しなしの警告」でした。これは、在庫を保持している業者にとって強い牽制となり、今後の監視強化や評判リスクを回避するために在庫放出へと動いた可能性があります。

◉ 小売の“政府経由調達”という代替ルート出現の影響

これまで中間業者を通じてしか米を仕入れられなかった中小スーパーが、政府の備蓄米放出によって「卸を経由しない仕入れ」の可能性を得たことも大きな転機です。流通業界にとっては、この変化は既得権益の崩れに直結します。小売が卸を通さなくても米を調達できるという事実が示された瞬間、卸側は自らの「存在価値の危機」に直面したといえるでしょう。

こうした状況が重なったことで、見えざる“流通の弁”が一気に開いたのです。

6. 今後の課題と注視すべきポイント──構造改革の必要性

今回の“米の逆流”現象は、単なる一過性の市場反応ではなく、日本の食糧流通が抱える構造的問題の一端を露呈させました。今後、私たちが注視し、政府や業界が改善すべきポイントは以下の通りです。

◉ 1. 備蓄米制度の再設計:平時でも機能する柔軟性を

現在の備蓄米制度は「極端な不作」や「有事」を想定したものになっており、日常的な市場混乱にはほとんど機能しません。今回のように、“市場価格が高騰しても出せない”硬直性は再設計が求められます。たとえば、一定の価格上昇や流通停滞が確認された時点で、段階的な放出を可能にするルールが必要です。

◉ 2. 入札偏重と大手優遇構造の見直し

政府の備蓄米は基本的に入札によって大手業者へ販売される仕組みになっており、中小スーパーや地域事業者に届きにくい構造があります。今回、小泉大臣が随意契約を導入したことは画期的でしたが、これを一時的な“例外措置”で終わらせるのではなく、常設化・制度化する必要があります。

◉ 3. 流通在庫の“見える化”と透明性の確保

ガソリンやマスクといった重要物資には、在庫量や流通量を可視化するシステムがあります。米にも同様の仕組みを導入し、国・消費者・報道機関が「今、どこに米があるのか」を把握できるようにすることが、過剰な憶測やパニックを防ぐ鍵になります。

◉ 4. 卸中心の市場構造から、小売主導・農家直販への転換

現状では、卸やJAが中間構造で価格と流通を握っており、消費者や農家はその決定に大きく依存しています。しかし、ECや物流網の発達を活用すれば、農家から直接スーパーに届くモデルも不可能ではありません。政府や自治体がその仲介支援を担う時代に来ているといえるでしょう。

◆ 価格の裏には、構造がある

「なぜ急に米が戻ってきたのか?」という素朴な疑問。その裏には、政治の一手と、見えざる流通の力学がありました。

私たちが店頭で見る米1袋には、実は複雑な構造と圧力がかかっており、それが時に“止まる”こともあるのです。今回、小泉大臣の決断が一つの転換点となったことで、この構造が可視化されました。

だからこそ、今、私たちは問い続けるべきです。「米は、なぜ高く、なぜ届かなかったのか」。そして、次にどう変えていくべきなのかを。