「人件費が増えたのに、会社は過去最高益らしい」「広告費をたくさん使ったのに、売上が大きく伸びて儲かったらしい」――こんな話を聞いて、「コストが増えたら利益は減るはずなのに、どうして?」と不思議に思ったことはありませんか?
実は、会計の世界にはさまざまな種類の「利益」があり、それぞれが会社経営の異なる側面を示しています。普段私たちが漠然と使う「利益」という言葉の裏には、様々な意味が隠されているんです。
今回は、この一見すると矛盾するような状況の裏側にある、「利益」と「営業利益」の違い、そしてコスト増と営業利益の関連性などについて、ご紹介します。
会社が「儲ける」ってどういうこと?利益の種類をおさらい
まず、会社がどんな活動をして、どんなふうに「儲け」を出しているのかを見ていきましょう。会社が発表する決算書の中で、儲けを示すのが損益計算書(P/L)です。ここには、いくつかの段階を踏んだ「利益」が示されています。
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売上総利益(粗利): これは一番シンプルな「儲け」です。商品やサービスを売った金額(売上高)から、その商品を作るのにかかった費用や仕入れにかかった費用(売上原価)を引いたもの。いわば、「商品を売ることで、単純にどれだけ儲けたか」を示します。
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営業利益: 次に登場するのが、営業利益です。これは、売上総利益からさらに「販売費及び一般管理費(販管費)」という費用を引いたものです。
では、この販管費とは何か?これは、商品を売るため、そして会社を運営するために必要なお金のこと。具体的には、以下のようなものが含まれます。
- 人件費:社員のお給料、賞与、福利厚生費など
- 広告宣伝費:テレビCM、インターネット広告、チラシなど
- 交通費:営業活動や出張にかかる費用
- 家賃:オフィスや店舗の賃料
- 消耗品費:文房具、事務用品など
つまり、営業利益は、会社が本業でどれだけ稼いだかを示す、とても重要な指標なんです。この数字が大きいほど、「この会社は本業でしっかり稼ぐ力があるね!」と評価されます。
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経常利益: 営業利益に、本業以外の「毎期発生する収入や費用」を加減したものです。例えば、銀行からの預金利息が入ってきたり(営業外収益)、借入金の利息を支払ったり(営業外費用)するなどがこれにあたります。会社全体の、通常の活動でどれだけ儲かったかを示します。
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税引前当期純利益: 経常利益に、一時的に発生した特別な利益(例:会社の土地を売って得た利益)や損失(例:災害で受けた損害)を加減したものです。税金を支払う前の最終的な儲けですね。
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当期純利益: そしてこれが、税引前当期純利益から法人税などの税金を差し引いた、最終的に会社の手元に残る儲けです。「最終的にこれだけ儲かったよ」という、いわば会社の最終的な成績表です。
「コストが増えても営業利益が上がる」のはなぜ?
「コストが増えたのに利益が増えた」と聞くと、「どういうこと?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、これは会計上、十分に起こりうることです。
例えば、ある企業が去年よりもずっと多くの商品を製造・販売できたとします。
- 売上が大幅に増加!
- それに伴って、売上総利益も大きく増加!
これだけ売上が伸びると、当然、生産を増やすための人手が必要になったり、販売を強化するための広告費用が増えたりと、人件費や広告宣伝費などの販管費(コスト)も増えることがあります。
しかし、もし販管費の増加をはるかに上回るペースで、売上総利益が増加していれば、結果として営業利益は大きく増えることになります。
つまり、「コストが増えた」という事実はその通りであっても、それを補って余りあるほど本業の売上を伸ばし、効率的に事業を進められた結果、営業利益は大きく向上した、というのが会計上の解釈になるわけです。
コスト増はどの「利益」にどう影響する?
「コストが増えたのに利益が増えた」という一見矛盾するような状況は、どの「利益」を見ているか、そしてコストの内訳によって説明できます。ここでは、それぞれの利益とコストの関係を見ていきましょう。
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売上総利益とコスト: 売上総利益は、商品やサービスの**売上原価(仕入れ費用や製造費用)**が上がれば、その分だけ低下する可能性が高まります。例えば、原材料費が高騰したり、工場で働く人件費が上がって製造コストが膨らんだりした場合、売上総利益は減ってしまいます。販売費や一般管理費の人件費(営業部や管理部の給与など)が上がっても、売上総利益には直接影響しません。
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営業利益とコスト: 営業利益は、売上原価が上がって売上総利益が減れば、それに伴って減少します。また、販管費(人件費、広告宣伝費、家賃など)が上がれば、直接的に営業利益は減少します。 しかし、もし営業利益が前年比でプラスになっている、つまり増益であれば、それはコストの上昇を大きく上回る売上総利益の増加や、より効率的な営業活動ができたことを示しています。例えば、人件費は増えたけれど、それ以上に売上を大きく伸ばしたり、広告費を効率的に使って集客できた結果、本業の「営業効率」が上がっていると解釈できるでしょう。
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当期純利益とコスト: 当期純利益は、営業利益の変動に加え、支払利息などの本業以外のコストや、土地・建物の売却損益といった一時的な損益、そして法人税の影響を強く受けます。そのため、営業利益が向上しても、多額の支払利息が発生したり、予期せぬ損失が出たり、あるいは税金が増えたりすれば、当期純利益は減少する可能性があります。逆に、本業が順調でなくても、資産売却益などの特別利益で最終的な利益が押し上げられることもあります。
このように、どの「利益」を見ているかによって、コスト上昇が経営に与える影響の解釈が変わってきます。
ニュースの「利益」に注目して、ビジネス力を上げよう
今回の解説で、「利益」という言葉が持つ多義性を理解いただけたでしょうか。
- 営業利益: 会社が本業でどれだけ稼ぐ力があるかを示す指標。
- 最終的な利益(当期純利益など): 本業以外の要因や税金なども含めた、最終的に会社の手元に残る儲け。
これらの違いを理解することは、あなたのビジネス力を格段に高めます。
例えば、経済ニュースで企業の決算が報じられた時、「この会社の本業は本当に調子がいいのか?」「最終的に儲けが出たのは、何か特別な事情があったからかな?」といった、より深い視点で情報を読み解けるようになります。漠然と「利益が出た」と聞くよりも、その背景にある企業の努力や戦略、時にはリスクまで見えてくるはずです。
また、自身の仕事においても、自社や取引先の経営状況をより正確に把握できるようになるでしょう。自分が関わっている業務が、会社のどの「利益」にどう貢献しているのかを理解できれば、仕事の質や成果への意識も変わってきます。
会計の知識は、決して専門家だけのものではありません。この「利益」の基本を理解するだけでも、日々のニュースやビジネスシーンが、きっともっと面白く、役立つものになるはずです。