「今までより病院代が高くなるの?」
「受診控えしても大丈夫?」
2025年10月1日、75歳以上の方の医療費負担を抑えてきた「最後の緩和措置」が終了しました。これにより、一定以上の所得がある約310万人の方々は、月の窓口負担が実質的に増加します。
これは、あなたの家計と今後の医療の受け方に直結する重要な変更です。一体、何がどう変わり、誰がどれだけ影響を受けるのか。制度の詳細と、私たちが考えるべき「健康保険の未来」を解説します。
1. 10月以降、窓口での負担はどう変わったのか?
今回の負担増は、新しい制度が始まったわけではなく、これまであった「緩和措置(配慮措置)」が終了したことによるものです。
【2025年9月30日まで】
2割負担の対象者であっても、外来医療の窓口負担が増加する額は、1か月に3,000円が上限とされていました。この上限を超えた分は、後から払い戻される仕組みになっていました。
【2025年10月1日から】
この「月3,000円の上限」という緩和措置はなくなりました。
- 高額療養費制度の上限額は適用されますが、それ以外は完全な2割負担となります。
- これまで払い戻されていた金額分も自己負担となるため、月の医療費が高くなった場合、実質的な負担が大きく増加します。
2. 負担が増える「2割負担」の対象者
この負担増の影響を受けるのは、もともと2022年10月から窓口負担が1割から2割に引き上げられた方々です。
具体的には、75歳以上の方(後期高齢者医療制度の被保険者)のうち、現役並み所得者(3割負担)を除く、以下の両方の基準を満たす方です。
- 基準1: 住民税の課税所得が28万円以上であること。
- 基準2: 「年金収入+その他の合計所得金額」が以下のラインを超えること。
- 単身世帯の場合:200万円以上
- 複数世帯の場合:合計320万円以上
厚生労働省の推計では、約310万人の方がこの2割負担の対象であり、今回の緩和措置の終了により、平均で年間9,000円程度、窓口負担が増える見込みです。
3. 制度見直しの背景
今回の見直しは、「全世代型社会保障」の実現に向けた取り組みの一環です。後期高齢者の医療費の財源のうち、約4割が現役世代の保険料で賄われており、現役世代の負担を抑制し、国民皆保険制度を持続可能にすることが目的とされています。
しかし、負担増による「受診控え」が発生し、病状の悪化につながるのではないかという懸念も指摘されています。
4. どこに問い合わせる?
ご自身の負担割合や制度の具体的な適用について、ご不明な点がある場合は、必ず以下の窓口にご確認ください。
- 窓口: お住まいの地域の後期高齢者医療広域連合、または市区町村の担当窓口
- 確認事項: ご自身の被保険者証に記載されている負担割合を改めてご確認ください。
5. 最後に確認! 負担増に関する重要ポイント3選
今回の75歳以上の医療費負担の変更について、最も重要なポイントは以下の3点です。
- 何が変わったか?: 2割負担となった方への「外来医療費の月3,000円の上限(緩和措置)」が、2025年10月1日で終了しました。
- 結果どうなるか?: 緩和措置がなくなったため、対象者の自己負担額が実質的に増加します。
- 対象者は?: 課税所得が28万円以上かつ、単身で年収200万円以上、複数世帯で合計320万円以上の一定所得がある75歳以上の方です。
6. FAQ(よくある質問と回答)
記事で解説した内容について、読者から寄せられやすい具体的な質問と回答をまとめました。
Q1. 緩和措置が終了しても、「高額療養費制度」は使えるのですか?
A. はい、高額療養費制度はこれまで通り適用されます。
この制度は、医療費の窓口負担が自己負担限度額を超えた場合に、超えた分が払い戻される仕組みです。今回の変更は、あくまで2025年9月まで適用されていた**「外来医療費の増加額を月3,000円までに抑える」という特例措置が終了した**だけであり、高額療養費制度自体には影響しません。
2割負担となる方には、外来のみで月18,000円、外来と入院を合わせて月57,600円などの上限が設けられています。
Q2. 夫婦ともに75歳以上で、片方だけが2割負担になることはありますか?
A. あります。
窓口負担割合の判定は世帯単位で行われますが、世帯内で最も所得が高い後期高齢者を基準に判定されます。
例えば、夫の年金収入が高く2割負担の基準を超えても、妻の所得が低く、夫婦合算の年収基準(320万円)を超えない場合は、世帯全員が1割負担のままとなる可能性があります。詳細な判定は非常に複雑なため、必ず自治体の窓口でご確認ください。
Q3. 遺族年金や障害年金は、2割負担の判定基準に含まれますか?
A. 含まれません。
2割負担の判定に使われる「年金収入」には、老齢年金などの課税対象となる年金が該当します。遺族年金や障害年金は非課税所得であるため、この判定基準には含めずに計算されます。
持続可能な健康保険制度を支えるために
今回の負担増は、超高齢社会が進む中で、日本の誇る国民皆保険制度を将来にわたって維持するための避けて通れない議論の結果です。医療の高度化と高齢者人口の増加により、医療費総額は増大し続けており、この大きなコストをどう分かち合うかが、すべての世代にとっての課題となっています。
今後も、社会保障費の公平な負担のあり方や、医療・介護サービスの効率化、さらには若いうちからの予防医療の重要性など、制度を維持するための議論は活発に進められます。
今回の変更をきっかけに、私たち一人ひとりが「今後の健康保険制度をどのように維持していくか」という国民的な議論に関心を持ち、考えていくことが重要です。