「あ、それパワハラですよ」
部下のミスを指摘した瞬間、返ってきたのは反省の言葉ではなく、鋭い拒絶の刃。
今、多くの現場リーダーたちが、この一言に震えています。正当な指導が「攻撃」とすり替えられ、上司が加害者に仕立て上げられる――。この「ハラ・ハラ(ハラスメント・ハラスメント)」の蔓延は、管理職から自信を奪うだけでなく、職場から「教育」と「情熱」を根こそぎ奪い去っています。
なぜ、あなたの指導は「ハラスメント」に変換されてしまうのか。そして、ハラスメントという名の盾を構える部下に、どう向き合えばいいのか。職場の牙を抜くこの病理の正体と、リーダーが再び「自分の言葉」を取り戻すための処方箋を考えます。
■ 「ハラ・ハラ」とは何か?
ハラ・ハラとは、正当な業務上の指導や注意に対し、「それはハラスメントだ」と不当に、あるいは過剰に主張することで、上司を精神的に追い詰めたり業務を妨害したりする行為を指します。
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典型的なパターン
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〆切遅延を指摘すると「精神的に追い詰められた」と主張する。
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指導内容ではなく「口調や表情」の不快感のみを盾にする。
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「ハラスメント」という言葉を、業務命令を拒否するためのカードとして使う。
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■ なぜ、これほどまでに「ハラ・ハラ」が広まっているのか?
この現象が蔓延する背景には、個人の資質だけでなく、現代特有の構造的な要因が複雑に絡み合っています。
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ハラスメント教育の「歪んだ浸透」: コンプライアンス意識の高まりにより知識が普及した一方で、それが「嫌なことを拒否するための便利なツール」として曲解され、防衛手段として過剰に使われるようになっています。
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「心理的安全性」の誤解: 「何を言っても否定されない場」という本質が、「厳しくされない場」だと誤解されています。その結果、健全な指摘すら「自分を脅かす攻撃」と捉えられてしまうのです。
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SNS社会による「被害者意識」の増幅: SNSでは「自分を被害者として定義し、周囲の共感を得る」発信が溢れています。この文化が職場にも持ち込まれ、何かあれば「自分は被害者だ」と定義することで自己正当化を図る心理が働きやすくなっています。
■ 指導者が陥る「沈黙の防衛」
ハラ・ハラを恐れるあまり、多くの上司は「言っても無駄」「関わらないのが一番」と指導の放棄を選びます。
これが「ホワハラ(ホワイトハラスメント)」の温床です。上司が自己防衛のために「優しすぎる仮面」を被ることで、職場は一見平和になりますが、その裏では組織の規律と若手の成長機会が静かに崩壊しています。
■ 「ハラスメント」と「指導」の境界線
そもそも、厚生労働省の定義でも「業務上の適正な範囲」で行われる指導はパワハラには当たりません。
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指導: 業務の遂行に必要な注意、改善点の指摘、期待を込めた叱咤激励。
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ハラスメント: 人格の否定、業務と無関係な攻撃、精神的な苦痛を与えること自体が目的。
この境界線を曖昧にしたまま「嫌だと感じたからハラスメント」という短絡的な思考が広まることが、ハラ・ハラを加速させています。
■ ハラ・ハラの連鎖を断ち切るために
上司一人の努力では、この問題は解決しません。組織として以下のスタンスを明確にする必要があります。
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「正当な指導」を孤立させない: 会社側が「何が指導で、何がハラスメントか」の基準を明確にし、正当な指導を行う管理職をバックアップする体制を整える。
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事実に基づいた対話: 「不快感」という感情の議論ではなく、「業務の目的(なぜその指導が必要か)」という事実にフォーカスしたコミュニケーションを徹底する。
目指すべきは「言葉を慎む職場」ではなく「言葉を尽くす職場」
ハラスメントを恐れて対話を止めることは、組織の死を意味します。必要なのは、過剰な配慮ではなく、相手の成長と業務の完遂に責任を持つ「真摯な言葉」です。
■ その「盾」は、あなたのキャリアを奪っていないか
ここで、ハラスメントという言葉を「盾」に使おうとしている人へ、知っておいてほしいことがあります。過剰なハラ・ハラは知らないうちに「自分自身に跳ね返ってくる」諸刃の剣です。
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「虚偽の申告」は処罰の対象: 事実に基づかない申告は、就業規則違反として「懲戒処分」の対象になります。また、上司の名誉を著しく傷つければ、損害賠償などの法的責任を問われるリスクさえあります。
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「成長機会」の完全な喪失: 一度「ハラ・ハラ」のレッテルを貼られた部下に対して、周囲は二度と本音で接してくれません。誰もアドバイスをくれず、責任ある仕事も任されなくなる。「組織内での孤立」こそが、最も残酷なペナルティとなります。
ハラスメントという言葉は、決して「無敵のカード」ではありません。むしろ、正当な理由なく振り回せば、自分の首を絞めることになります。
■ よくある質問(FAQ)
Q:部下から「ハラスメントだ」と言われたら、まずどうすべき?
A: 感情的に反論せず、まずは相手が「何に対して」そう感じたのかを冷静にヒアリングしましょう。その上で、自分の発言の「業務上の目的」を論理的に説明し、記録に残すことが重要です。
Q:ハラ・ハラ気質の部下には、もう何も言わないほうがいい?
A: 放置は逆効果です。周囲への悪影響も考え、第三者(人事や他部署のリーダー)を交えた面談など、「一対一」を避けた公的な指導体制を構築してください。
ハラ・ハラを乗り越え、健全な指導文化を取り戻すために
本記事では、現代のリーダーを悩ませる「ハラ・ハラ(ハラスメント・ハラスメント)」の正体と、その背景にある社会構造、そして具体的な対策についてご紹介してきました。
ハラ・ハラが蔓延する職場では、上司が萎縮して指導を放棄する「ホワハラ(ホワイトハラスメント)」が起き、結果として若手の成長機会を奪うという悪循環に陥ります。この連鎖を断ち切るために重要なポイントを改めて整理します。
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「正当な指導」と「パワハラ」の定義を再確認する: 業務上の必要性がある指摘は、決してハラスメントではありません。
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「感情」ではなく「事実」で会話する: 指導の目的を論理的に説明し、客観的な事実(記録)を残すことが、上司・部下双方を守ることにつながります。
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組織としてのバックアップ体制を作る: 管理職一人に抱え込ませず、人事を交えた組織的な対応ルールを構築することが不可欠です。
「ハラスメント」という言葉に怯え、本来伝えるべき教育の言葉を飲み込んでしまうのは、組織にとっても部下本人にとっても大きな不幸です。
もしあなたが今、「これってパワハラかな?」と悩み、自信を失いかけているなら、まずはその指導が「相手の成長や業務の遂行に必要かどうか」を自問してみてください。誠実な目的を持った言葉であれば、それは立派なマネジメントです。
ハラスメントへの正しい理解と毅然とした態度こそが、風通しの良い、それでいてタフな組織を作る一歩となります。今日から、言葉を慎むのではなく、「正しく言葉を尽くす」コミュニケーションを始めてみませんか。
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