2025年春、全国的に米の供給不安が広がる中で、流通業者や飲食店、食品メーカーなどの間で「青田買い」の動きが活発になっています。
青田買いとは、まだ収穫前の段階で、将来収穫される米を事前に買い付ける取引のことです。必要量を早めに確保するための手段とされていますが、この動きが米の価格にも影響を及ぼし始めています。
背景にあるのは供給不安と構造的な変化
近年、大規模な不作が発生したわけではありませんが、米の供給を巡っては構造的な不安が高まっています。
その主な要因のひとつが作付面積の減少です。
かつては米の過剰生産による価格下落を防ぐために、政府は「減反(生産調整)」政策を長年にわたって実施してきました。2018年に制度としての減反は廃止されましたが、現在も自治体や農協による事実上の作付抑制が続いており、主食用米の作付面積は年々縮小しています。
さらに国の政策は、農家に対して飼料用米や加工用米への転作を促す方向へシフトしており、主食用米の生産が抑制される傾向が強まっています。
加えて、収益性の低下や農業従事者の高齢化も相まって、主食用米を生産する農家が減少している状況です。
そのほかにも以下のような要因が、米不足感と需給の不安定化を招いています。
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気候変動の影響:猛暑や渇水などにより、一部地域では品質や収量にばらつきが見られています。
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外食需要の回復:コロナ禍を経て、外食産業の需要が急激に回復し、業務用米の供給が追いついていません。
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インバウンド消費の増加:観光地を中心に、炊飯需要が再拡大しています。
誰がなぜ青田買いを行うのか?
青田買いを行っているのは、主に以下のような業者です。
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外食チェーン(牛丼店、回転寿司チェーンなど)
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食品メーカー(冷凍食品・コンビニ弁当・総菜)
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スーパー・量販店(自社ブランド米を確保するため)
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米卸業者(業務用やブレンド用の安定供給のため)
こうした業者は、米の価格変動や品薄によるリスクを避けるために、収穫前の段階で農家と直接契約を結びます。
事前に数量や価格、品種、品質基準を取り決めておくことで、必要な量を確実に確保できるためです。
外食業界では、原材料価格が経営に直結するため、価格が安定しにくい米の確保は死活問題となっています。
また、小売業でも消費者向けの価格を安定させるため、早期の調達に動く傾向が強まっています。
ある食品メーカーの担当者は、「高品質な米を確保できなければ、製品自体の品質や供給スケジュールにも影響が出る。今は収穫前に動かないと間に合わない」と話しています。
消費者への影響:青田買いがなければどうなる?
青田買いは一部の業者による早期の買い付け行動と思われがちですが、実は私たち消費者の暮らしを守るために重要な役割を担っています。
もしこうした青田買いが十分に行われなかった場合、以下のような問題が生じるおそれがあります。
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小売価格の上昇
自由に流通する米の量が限られ、市場に出回る米に需要が集中することで、一般消費者が購入する価格が上昇しやすくなります。 -
品質の選択肢が減る
高品質な米は業務用として先に契約で押さえられ、市場には等級の低い米やブレンド米が多く出回る可能性があります。 -
供給不安の連鎖
店頭での品薄や欠品が報道されると、消費者の間で買いだめや買い急ぎが起こり、さらなる価格上昇や流通不安を引き起こしかねません。
つまり、安定的に良質な米を適正な価格で届けるためには、事前に需要を見越して供給を確保する青田買いが欠かせない存在になっているのです。
青田買いが引き起こす価格への波及効果
青田買いは、市場に出回る前に価格がある程度決まるため、市場全体の価格期待値を押し上げる要因となっています。
収穫前に高値で契約が成立すれば、それが相場感となり、秋以降の市場価格にも影響を与えるのです。
また、事前契約が増えることで市場に出回る自由流通米の量が減少し、小規模な業者や一般消費者が割高な価格で購入せざるを得ない事態も懸念されています。
今後の見通しと課題
短期的には、今後の天候状況や輸入枠の調整などによって価格が落ち着く可能性もありますが、長期的には米の需給構造そのものを見直す必要があります。
青田買いは、安定供給の観点では一定の役割を果たしますが、価格の不透明化や取引の公平性に影響を及ぼすおそれもあります。
今後、夏場の天候次第では、さらに供給不安が高まる可能性もあります。
短期的には輸入米の調整や在庫放出などで対応できる場面もあるかもしれませんが、主食用米の構造的な生産縮小が続く限り、青田買いの必要性は今後も高まると見られます。
その一方で、青田買いの拡大が市場の自由な価格形成や公正な取引をゆがめる可能性も指摘されています。
今後は、農政や流通の在り方も含め、中長期的な米政策の見直しが求められる局面に入っているのかもしれません。