野菜の値段が気になるとき、買い物かごに入れやすいのがもやしです。炒め物や鍋の具材、料理のかさ増しにも使え、「家計の味方」として頼りにしている方も多いのではないでしょうか。
その身近な食材を支える生産現場で、厳しい状況が続いています。2026年10月には、埼玉県内有数のもやし生産業者の事業停止が報じられ、一部の飲食店が仕入れ先の確保に動く事態となりました。
全国の生産者も減少しています。問題になっているのは、一時的な品薄だけではありません。「安く買えること」を支えてきた生産体制を、これからも維持できるのかという課題です。
📰埼玉県内有数の「サイキ食品」が事業停止
東京商工リサーチの発表や埼玉新聞の10月3日付報道によると、サイキ食品(埼玉県所沢市)と関連会社のデリオールは、9月30日までに事業を停止し、事後処理を弁護士に一任しました。
埼玉新聞は、サイキ食品について、もやしの日産量が40トンと県内トップクラスで、大手スーパーや飲食店にも販路を持つ企業だったと伝えています。
家庭向けの売場だけでなく、業務用の供給も担っていた企業の停止です。関西テレビの10月13日放送の取材では、ラーメン店が無料のもやし増量サービスの継続を懸念したり、仕入れ先の確保を急いだりする動きが紹介されました。
ただし、この事業停止だけで全国すべての売場が品薄になったと確認されたわけではありません。影響する取引先や地域を分けて受け止める必要があります。
📉生産者数は2009年の235から、2026年度初めに86へ
今回のニュースの背景には、長期的な生産者の減少があります。
関西テレビがもやし生産者協会の情報として報じた数字では、全国の生産者数は2009年の235から、2026年度初めには86へ減っています。単純計算では、約17年間で6割以上の減少です。
ここで注意したいのは、生産者の数と、生産量は同じではないことです。事業者の集約や工場規模の違いもあるため、生産者数の減少率だけから、もやしの供給量が同じ割合で減ったとはいえません。
それでも、供給を担う事業者が減るなかで主要な取引先が停止すれば、代わりの供給先を探す負担が生じます。今回の飲食店の動きは、その問題を身近に感じさせるものです。
出典:関西テレビ「生産会社の事業停止でラーメン店などが『もやし争奪戦』」
💰安いままのイメージと、上がる生産コスト
業界は以前から窮状を訴えていた
もやし生産者協会は、2022年に公表した資料でも、原料種子や人件費などの上昇に対し、販売価格が追い付かない状況を訴えていました。
同年11月の資料では、1992年と比較して原料種子価格が3倍以上、最低賃金が1.7倍になった一方、もやしの全国平均価格は2割以上下落したと説明しています。
これは2022年時点の比較であり、2026年の最新倍率ではありません。ただ、今回初めて経営の厳しさが表面化したわけではなく、以前から課題が続いていたことが分かります。
国内で育てても、原料種子は輸入に依存
協会によると、国内のもやし工場で育てる原料種子の緑豆などは、ほぼすべてを海外からの輸入に頼っています。
国内で生産される野菜であっても、原料の調達は海外とつながっています。種子の価格や為替の動向は、生産コストを考えるうえで無視できない要素です。
さらに、安定して出荷するには栽培・加工・包装・配送などの工程が必要です。店頭の一袋の安さからは、その途中にかかる負担が見えにくい面もあります。
🏭「水で育つ」からといって、手間や設備が要らないわけではない
もやしは工場で栽培される野菜ですが、水を与えておけば、そのまま店へ届けられるわけではありません。
協会の生産工程の紹介では、発芽・成育にあたり、水や温度、空気、光などを管理すると説明されています。栽培後には洗浄や包装などを行い、鮮度と衛生に配慮しながら出荷します。
こうした生産管理を知ると、「もやしは安いもの」という印象と、実際に作り続けるための費用との間にある隔たりも見えてきます。
工場生産による供給の安定と、生産者の経営の安定は、それぞれ考える必要があります。
🛒なぜ値上げしにくいのか
関西テレビの取材では、生産・販売の双方から、もやしの価格を大きく変える難しさが語られています。
消費者には、もやしに対するおなじみの価格感があります。安く使いやすいことが購入理由になっているだけに、値上げに慎重になる事情があると考えられます。
しかし、生産コストが上がっているのに価格へ反映できなければ、その負担をどこかが引き受け続けることになります。安さを維持するための努力だけで吸収できる範囲には限りがあります。
「安く売れているから、作る側も安く作れている」とは限らない。今回の問題は、その点を考えるきっかけになります。
🍜家庭の食卓だけでなく、外食にも関わる問題
もやしは家庭料理に加え、ラーメンや炒め物などでも使われています。大量に使う店にとって、必要な数量を安定して仕入れられることは重要です。
仕入れが難しくなったり調達コストが上がったりすれば、増量サービスや盛り付け量、メニュー価格などを見直す可能性もあります。ただし、全国の店で値上げやサービス終了が決まったという話ではありません。
家庭でも、いつもの価格で手に入ることは助かります。一方、その価格で供給し続けられるかという問題は、将来の買い物にもつながっています。
🌿消費者はどう受け止めればよい?
品薄への不安から買いだめする必要はない
今回確認した情報では、全国一律の供給停止や、もやしがすぐに買えなくなることは示されていません。
生産者減少のニュースを、そのまま「明日から全国で消える」という話に置き換えないことが大切です。買い物では、普段どおり必要な量を選び、売場の情報を確認しましょう。
価格だけでなく、生産を続けられるかにも目を向ける
家計が厳しいなか、少しでも安く買いたいと考えるのは自然なことです。今回の問題を、消費者の節約が悪いという話にする必要はありません。
生産者や小売店、飲食店、消費者それぞれに事情があります。そのうえで、値段が変わったときに「これまでの価格で作り続けることが難しくなっているのかもしれない」と背景を知ることは、ニュースの理解につながります。
特定の一袋がいくらなら業界を維持できるのかは、生産・流通・販売の条件によって異なります。一律の適正価格を決めつけず、価格と安定供給をあわせて考えたいところです。
🌱「安くて当たり前」の先に、作り続けられる仕組みを
サイキ食品の事業停止と、生産者数の長期的な減少。今回のニュースが示しているのは、もやしの安さを支える現場が厳しい状況にあることです。
生産者の減少が、そのまま同じ割合の生産量減少を意味するわけではありません。また、全国的な品薄や一斉値上げが決まったわけでもありません。それでも、供給の担い手が減る問題は、日々の買い物や外食と無関係ではありません。
家計の味方であり続けてほしいからこそ、店頭の価格だけでなく、作る人が事業を続けられるかにも目を向けたいところです。「安いもやし」のニュースは、身近な食材をこれからも安定して買えるようにするには何が必要かを問いかけています。

